最新記事

ロボット

固体から液体、液体から固体に変化するロボットが開発された

2023年1月31日(火)19時15分
松岡由希子

液体になって鉄格子の隙間から流れ出し、再び合体して元の形状に戻った...... Wang and Pan et al. under CC BY-SA

<固体から液体、液体から個体へと迅速かつ可逆的に状態を変化させるロボットが開発された......>

中国・中山大学、米カーネギーメロン大学らの研究チームは、ナマコから着想を得、固体から液体、液体から個体へと迅速かつ可逆的に状態を変化させるロボットを開発した。その研究成果は2023年1月25日付の学術雑誌「マター」で発表されている。

従来の剛体のロボットは狭いスペースや小さい角度の移動に適していない一方、柔軟性のある素材でできた「ソフトロボット」は強度が低く、動作を制御しづらい。

そこで研究チームは「ロボットが液体と固体に切り替えられれば、機能性を高められるのではないか」と考えた。たとえばナマコは、組織の硬さを変化させることで、物理的損傷を抑える性質がある。

>>■■【動画】鉄格子の隙間から流れ出し、再び合体

液体になって隙間から流れ出し、再び合体

研究チームは、摂氏29.8度を融点とする液体金属「ガリウム」にネオジム、ホウ素、鉄からなる磁性微粒子を埋め込んだ新しい位相シフト材料「MPTM」を開発した。

磁性微粒子を用いて交番磁界に反応させ、誘導加熱を促し、相変化を起こす仕組みだ。また、磁性微粒子によってロボットが磁場に反応して動作できるようになる。

このようにして、固相では機械強度が高く、耐荷重は30キロで、秒速1.5メートル超の移動速度を実現する一方、液相では伸長、分割、合体といった優れた形態適応を発揮する。

「MPTM」でできたヒト型の小さなロボットを檻の中に入れた実験では、ロボットが磁場を利用して液体になって鉄格子の隙間から流れ出し、再び合体して元の形状に戻った。

胃から異物を回収したり、薬剤を届けたり

また、このロボットを使ってヒトの胃モデルから異物を回収したり、薬剤を届けたりする実験にも成功した。ロボットが異物の位置まで素早く移動して液相に移行し、異物を包み込んだ後に固相に戻って異物とともに胃から出たり、薬剤を包んだロボットが胃の中に移動し、液相に移行して薬剤を放出した後、固相に戻って胃から出ることが示された。

このロボットは、無線回路の組立や修理ではんだや導体として利用したり、部品を組み立てるための万能ねじになることも実証されている。

研究論文の共同著者でカーネギーメロン大学のカルメル・マジディ教授は「今後は、生物医学の観点でこのロボットをどのように活用できるか、さらに追究していく必要がある」と述べている。

>>■■【動画】鉄格子の隙間から流れ出し、再び合体

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は続伸、円高一服などで4カ月ぶり高値 3万

ワールド

イラン議会、IAEAとの協力停止法案承認=報道

ワールド

アングル:NATOの北の守り固めるフィンランド、一

ビジネス

日米交渉継続中の利上げ、「可能性は高くない」=田村
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 3
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係・仕事で後悔しないために
  • 4
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 5
    都議選千代田区選挙区を制した「ユーチューバー」佐…
  • 6
    細道しか歩かない...10歳ダックスの「こだわり散歩」…
  • 7
    「子どもが花嫁にされそうに...」ディズニーランド・…
  • 8
    人口世界一のインドに迫る少子高齢化の波、学校閉鎖…
  • 9
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 10
    「温暖化だけじゃない」 スイス・ブラッテン村を破壊し…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 7
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 8
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 9
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 10
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中