最新記事

東南アジア

長官はじめ全警察幹部400人超に辞表求める フィリピン麻薬汚染者を調査、問題あれば即クビに

2023年1月5日(木)16時00分
大塚智彦
道路に倒れた男性とピストル

ドゥテルテ政権の麻薬犯罪対策で超法規的殺人が許されていたが……。写真は超法規的殺人への抗議のダイイン。Romeo Ranoco - REUTERS

<超法規的殺人など強硬な麻薬対策を進めた国が今度は警察をターゲットに──>

フィリピンのベンフル・アバロス内務相は1月4日、国家警察の長官を含む幹部429人全員に対して辞表の提出を要請した。警察内部に潜む麻薬関連犯罪に「大ナタ」を振るうための措置で、辞表を提出した幹部に対しては特別に任命された委員会メンバーが個別に審査して麻薬犯罪への関与を見極めるとしている。

数カ月を要するとみられる審査期間中は職務を継続することはできるが、問題が発覚した場合、その幹部の辞表はそのまま受理され退職に追い込まれる。このため、警察幹部の間に巣食う麻薬関連問題を一掃できるとしており、ロドルフォ・アズリン国家警察長官も例外ではなく辞表を提出するという。

アバロス内務相によると辞表を提出した幹部警察官の審査に当たる委員会はマルコス大統領の承認を経て任命された5人の委員で構成される。この委員についてアバロス内務相は「委員は全員信頼できる人物である」としたうえで、外部や警察内部からの干渉や脅迫を受ける可能性があるとして委員の顔ぶれについては非公表としている。

アバロス内務相は麻薬問題で「身に覚えのある幹部警察官は辞表提出を躊躇する」可能性があり、その時点でも関与の有無が判断できる可能性があるとして今回の方針は有効な手段だとしている。

大佐以上の429人が対象

地元メディアの報道によると、国家警察は22万7000人からなる組織で幹部となる大佐クラスが293人、准将108人、少将19人、中将8人、大将クラスの長官1人の合計429人の幹部がいる。今回はこの大佐以上の幹部全員に対し辞表の提出が求められている。

4日にマニラ首都圏ケソン市にある国家警察本部で行われた行事に出席したアバロス内務長官は警察幹部に対して「辞表提出はショックだろうが、国家警察が新たなスタートを切る唯一の方法である」と理解を求めた。

アズリン国家警察長官は声明の中で「重要なことは内務相など上部機関を完全に信頼していることであり、そうした機関の評価に先頭を切って従う」と述べ、長官自ら陣頭に立って辞表提出に応じる姿勢を示した。

前政権時代は超法規的殺人が横行

今回の措置はマルコス大統領の肝いりで実現したが、ドゥテルテ前大統領時代は麻薬関連犯罪の摘発に力を入れるため、司法手続きなしで捜査現場での警察官による容疑者射殺という「超法規的殺人」が横行。米オバマ政権をはじめとする国際社会や人権団体などから大きな批判を招いた。

さらにオランダ・ハーグにある国際刑事裁判所(ICC)も超法規的殺人が人道に反するとして予備調査に乗り出した。これを受けてフィリピンは2019年にICCから脱退している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

GMメキシコ工場で生産を数週間停止、人気のピックア

ビジネス

米財政収支、6月は270億ドルの黒字 関税収入は過

ワールド

ロシア外相が北朝鮮訪問、13日に外相会談

ビジネス

アングル:スイスの高級腕時計店も苦境、トランプ関税
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「裏庭」で叶えた両親、「圧巻の出来栄え」にSNSでは称賛の声
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 5
    セーターから自動車まで「すべての業界」に影響? 日…
  • 6
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 7
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 8
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 9
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 10
    日本人は本当に「無宗教」なのか?...「灯台下暗し」…
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 6
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 7
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 10
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中