最新記事

映画

二宮和也『ラーゲリより愛を込めて』の主人公・山本幡男氏の長男が語る、映画に描かれなかった家族史

AN UNTOLD FAMILY STORY

2022年12月13日(火)14時50分
小暮聡子、大橋希(本誌記者)

東京大学でフランス文学を学んだ後、立教大学教授として教壇に立った山本顕一さん。学問と教育の道を貫いた PHOTOGRAPH BY HAJIME KIMURA FOR NEWSWEEK JAPAN

<実話に基づく映画『ラーゲリより愛を込めて』の主人公・山本幡男氏の長男で、立教大学名誉教授の山本顕一さんに聞く、記憶の中の父と戦後の母。秘蔵写真と共に明かされる家族の物語とは>

実話を基にした映画『ラーゲリより愛を込めて』(12月9日公開)は1945年8月、満州で主人公の山本幡男(はたお)が妻モジミと3人の息子、そして幼い娘と家族の時間を持った後、離れ離れになるシーンから始まる。

当時10歳だったという幡男の長男で、立教大学名誉教授(フランス文学)の山本顕一(87)さんに、本誌・小暮聡子と大橋希が話を聞いた。

――映画『ラーゲリより愛を込めて』を見た感想は。

瀬々敬久監督がよく作られていて、シベリアの状況もよく捉えていて。二宮和也さんも、よく演じてらっしゃるなと思いました。父にずいぶん似ているというかね。正直なところ、映画はやっぱり実際とは違ってはいるけれど。

――山本幡男氏は、顕一さんから見てどんな人だったか。

子供の頃の私にとっては、父は本当に怖い、おっかない存在だった。シベリアに行ってからの父はユーモアがあって皆を楽しませていたと聞いているけれども、私が知っている頃は戦時中だったので。父はその時代が嫌でね。何かにつけ日本の軍国主義を嫌って、嘆いていた。そのため、いつも不機嫌でした。

――日本の軍国主義が嫌いだと口に出せるような時代ではなかったと思うが、家庭内では話していた?

家の中ではね。酔っぱらうと大声でしゃべるんだけど、そうすると母や祖母が心配するんですよ。近所に聞こえるから。ところが、父がシベリアで亡くなり、遺書を家に届けに来てくれた方が父の話をしてくれて、向こうではずいぶん立派な生き方をしていたと。それを聞いて、ああそんな人だったのか、と改めて思いました。

――顕一さんが大学3年生の時に遺書が届いたそうだが、当時の記憶はあるか。

とんでもなく重たい立派な遺書が家族に宛てられていて、父が必死の思いで書いたという、その気持ちは十分に分かった。特に子供たち宛ての遺書では、4人のきょうだいにいろんな希望を託している。その希望に、自分も応えなきゃならないとは思っていたんですが、それが非常に重くてね。

でも、父の一周忌に父を知っている方が集まってくれたとき、父の友人が私のところに来て、ケンちゃん、こんな遺書をもらって大変だろうけど、あまりそこにこだわらずに自分は自分で生きていったらいいよと言われまして。それが救いでした。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドル34年ぶり155円台、介入警戒感極まる 日銀の

ビジネス

エアバスに偏らず機材調達、ボーイングとの関係変わら

ビジネス

独IFO業況指数、4月は予想上回り3カ月連続改善 

ワールド

イラン大統領、16年ぶりにスリランカ訪問 「関係強
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 2

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 3

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」の理由...関係者も見落とした「冷徹な市場のルール」

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 6

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    コロナ禍と東京五輪を挟んだ6年ぶりの訪問で、「新し…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中