最新記事

BOOKS

「公園で毎日おばあさんが犬としていた」40年前の証言

2022年12月9日(金)18時10分
印南敦史(作家、書評家)

街の化けの皮を剥がす...気分が悪くなるくらいのインパクト

特徴的なのは、前者に自己開示的な側面が強く、後者は池袋という街の化けの皮を剥がすような生々しさがある点である。したがって、どちらに惹かれるかは好みの分かれるところだろうし、優劣を比較するようなものでもない。しかし、タイトルが期待させる池袋の闇の部分に関していえば、中村氏のパートにおいてより際立っているかもしれない。


「池袋は昔から、本当に変態な地域。どうしようもないくらい変態、もうあきれちゃうくらい。四十年前にここに引っ越してきた頃ね、公園で毎日おばあさんが犬とセックスしてたの。犬がおばあさんにバックで突いてるの。犬はクネクネ、クネクネ突いて、おばあさんは気持ちよさそうにしていたわ。私は変態なんて知らなかった頃だから、最初はまさかと思った。じっくり見ちゃった。でも、そんなことが毎日だからすぐ慣れちゃった」
 池袋を語るにあたって「変態」という言葉はさけて通れない。変態とは「異常な状態」「普通でない状態」という意味である。犬とおばあさんがセックスしていたのは西池袋公園だという。池袋では異常が日常だ。住人たちはすぐにマヒして受け入れてしまう。(38ページより)

引用されているのは、中村氏が取材した史上最高齢SM女王様夜羽エマさん(60代)の発言だ。白状してしまえば、この部分を読んだ時点で少し気分が悪くなった。38ページ目にしてここまでインパクトが強いのなら、この先どうなってしまうのだろうと。

また、「池袋=変態」と決めつけてしまうのもどうかと感じた。変態はどの街にもいるだろうし、池袋に限った話とは断言できない可能性もあり得る。とはいえ読み進めていくと、「変態」がさまざまな意味において池袋を象徴するワードであること自体は間違っていないのだろうと感じるようにもなっていった。

そしてそんな気持ちは、やがて「変態が『普通でない状態』だというのなら、普通とはなんなのだろう?」という疑問につながっていったりもした。だからといって、ここに描写されているような世界に足を突っ込む勇気はないのだが、正常と異常を分かつ境界線は、意外と曖昧なものなのかもしれない。

変態たちも高齢化し、健康問題を抱えるようになった

少なくとも池袋には、そういった"一般的な尺度からすれば異常と見えなくもない人たち"が集まりやすい磁力のようなものがあるのかもしれない。

それは、かつて池袋で変態居酒屋を経営していたという、とあるママの発言からも明らかだ。


「変態居酒屋をはじめてから、私に頼めば、困ったときになんでも助けてくれるみたいな噂が広まった。だからカラダを売りたい、売春したい、とにかくお金が欲しいって女の子が集まるようになったんです。あとお客さんとか地元のヤクザが女の子を連れてくる。ママのところだと安心だからって」(100ページより)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米人員削減、11月は前月比53%減 新規採用は低迷

ビジネス

英中銀、プライベート市場のストレステスト開始 27

ワールド

中国、レアアース輸出ライセンス合理化に取り組んでい

ワールド

ウクライナ南部に夜間攻撃、数万人が電力・暖房なしの
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 3
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 4
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中