最新記事

宗教

「ベルトでお尻を叩かれた」「大学進学は罪」──宗教2世1131人に聞く宗教的虐待の実態

2022年11月22日(火)11時00分
荻上チキ(評論家、社会調査支援機構「チキラボ」代表)

「集団的な虐待推奨行為」の規制を

そこでまずこの記事で特に投げかけたいのは、「集団的な虐待推奨行為」への対処である。

宗教実践の中には、あきらかに子どもに有害なものも含まれる。調査の中で目立ったのは、「エホバの証人」の2世回答者の、身体的虐待(体罰)経験率だった。調査では、エホバ2世回答者の8割以上が、家族等からの身体的虐待を経験していた。

具体的にどのようなものであったのか。ここに自由記述の一部を紹介する。
(※具体的な記述が含まれるので、ストレスやフラッシュバックなどに注意してください)


●小さい子供の頃、集会で大人しく座っていられない等の理由で皮のベルトでお尻を叩かれた。会館と呼ばれる集会所には懲らしめの部屋があり、誰でも使える皮でできた鞭が複数置かれていた。

●木の棒やゴムホースでお尻を直接(何も履かない状態で)叩かれた。しょっちゅう赤いみみず腫れができていた。自分から服を脱いでお尻を出さなければならず、怖いので出せないでいると何時間も母親とにらみ合いの状態が続いた。お尻を出せるまで納戸に閉じ込められることもあった。とにかく痛くて怖くて嫌だった。

●集会や布教に行きたくないと言うとお尻を出して電気コードで何十回も叩かれました。皮膚がさけました。悲しくて辛くて苦しくて怖かったけど私が悪いからだと言いました。親は宗教活動をしないと本当に世界の終わりに滅ぼされると教団の教えを信じていたので、これも親の愛なんだと思うようにしむけられていました。お祭りや友達の誕生日パーティーも行きたいと言うと鞭で叩かれます。祭り事や楽しいことは全て禁止で破ったら鞭です。

2世や脱会者へのインタビューを聞くと、信者たちはしばしば、「鞭」に代わるものの情報交換などを行なっていたようだ。そして子どもへの「鞭」を行なった親に対し、ねぎらいや励ましの言葉を掛け合うという。

毎日新聞の取材に対し、エホバの証人の広報担当者は、「方法は各家庭で決めることだが、体罰をしていた親がいたとすれば残念なことだ。教えを強制することもしていない」と回答したという。このような回答に対し、エホバの元2世たちによるウェブコミュニティでは、憤りの声が多くあがっていた。

虐待を推奨する行為は、エホバの証人だけではない。例えば調査には、次のような体験談も寄せられた。


●意に反して裸足で焚き火の上を渡らされたり、早朝に起こされ冷水を浴びせられたりした。

●「参加しないのは不信心だ、家がダメになる」と言って、火渡りや登山、滝行、神社への参拝などに行事に連れて行かれた。

集団としてなされていた行為に対し、教団が「信者の暴走論」で済ませようとする動きは、これからも行われるだろう。こうした実態を考えると、「集団的な虐待推奨行為」に対する規制や、法人格としての安全配慮義務を実行させることなどが必要であると考えられる。

また、他の犯罪であれば、教唆(そそのかすこと)や幇助(手助けすること)が罰せられることがある。筆者は、虐待についても、教唆や幇助について対応する必要があるのではないかと考える。

これまで虐待は、家庭で独自に行われるものが想定されて議論されてきた。実際「児童虐待防止法」でも、「児童虐待とは、保護者がその監護する児童についておこなう行為」とされている。ここでは、親同士の教唆や幇助、そしてその集団への指導などは想定されてこなかった。

宗教2世への幅広い身体的虐待が明らかになった今、「集団的な虐待推奨行為」についても、議論をすることが必要だと考える。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イスラエルがイエメン首都攻撃、6人死亡 「フーシ派

ビジネス

ECB、ユーロ圏経済軟化なら年内に追加利下げ議論再

ビジネス

英国、弱い経済成長と労働参加率低下に直面=ベイリー

ワールド

イスラエル、最大都市ガザ市郊外を砲撃 攻撃拡大を表
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋肉は「神経の従者」だった
  • 2
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 3
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密着させ...」 女性客が投稿した写真に批判殺到
  • 4
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 5
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 6
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    株価12倍の大勝利...「祖父の七光り」ではなかった、…
  • 9
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 10
    アメリカの農地に「中国のソーラーパネルは要らない…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 6
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 7
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 8
    「このクマ、絶対爆笑してる」水槽の前に立つ女の子…
  • 9
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中