最新記事

ウクライナ

ゼレンスキーに「覚悟」が生まれた瞬間──プーチンとの「戦前対決」で起きていたこと

ROLE OF A LIFETIME

2022年10月21日(金)18時15分
セルヒー・ルデンコ(ジャーナリスト)

220823p24_ZKB_02edit.jpg

2019年12月にパリで行われた4カ国首脳会談。左からゼレンスキー、マクロン、プーチン、メルケル CHRISTOPHE PETIT TESSONーPOOL/GETTY IMAGES

だが今年2月24日、ロシアによる大規模な軍事侵攻が始まってからというもの、ゼレンスキーは全く違う姿を見せるようになった。プーチンの挑戦をひるまず受けて立ち、ロシアの侵攻へのレジスタンスを率いるリーダーになったのだ。

ロシアとの戦いの中で彼は支持者も反対勢力も、腐敗した役人も汚職撲滅の闘士も、大人も子供も、国籍や宗教の異なる人々をも一つにまとめ上げた。欧州各国の議会でもアメリカの連邦議会でも、喝采をもって迎えられる国家指導者になった。

だが、「神話」を信じがちなウクライナ人の国民性は指摘しておかなければならないだろう。昔のコサックの指導者がイギリスのどこかに大量の金を残したという伝説もそうだし、ビクトル・ユーシェンコ元大統領は救世主扱いされた。ゼレンスキーとその党が、ウクライナ人の抱える問題の全てをドラマのように解決してくれると信じているのもそうだ。

そして、ウクライナの人々が完全に忘れていることがある。「国民の公僕」党はもはやテレビドラマではなく、自分たちの代表であり、子供たちの未来だということだ。

国民はゼレンスキーとそのチームを信頼した。この決断が正しかったかどうかは、戦争が終わった後に分かるだろう。なぜなら選挙公約を果たすかどうかだけでなく、ウクライナの独立のために戦い抜くかどうかは、ゼレンスキーと「国民の公僕」党に懸かっているからだ。

大統領に就任してから数カ月間、ゼレンスキーはプーチンとの会談を望んでいた。東部ドンバス地方での親ロシア派武装勢力と政府軍との紛争に終止符を打つという選挙公約を何とか実現したいと思っていたからだ。そのためには、プーチンと交渉のテーブルに着く必要があった。

ゼレンスキーはプーチンの目を見て、人間として相手を理解したいと語った。だからこそ、ゼレンスキーはドンバスでの再停戦や前線の兵力の分散、ロシアとの再度の和解など、あらゆる対応を取る用意があった。ゼレンスキーは心底信じていたのだ。プーチンの目をじっと見つめれば、少なくとも紛争における1万4000人の死を悲しむ気持ちのかけらくらいは浮かんでいるはずだと。

ウクライナとロシアに仲介役のフランスとドイツを交えた4カ国による首脳会談は、19年12月9日に設定された。これを前にゼレンスキーは、自分の俳優としてのカリスマ性や魅力が功を奏するはずだと、そして東部紛争を終わらせる保証を得られると思い込んでいた節がある。一方で彼は、プーチンも自分と同じくらい「役者」であることを忘れていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドルが対円で急落、一時約2円安の15

ワールド

アフガン作戦巡るトランプ氏発言に反発 欧州同盟国、

ワールド

伊首相、トランプ氏「平和評議会」規約修正求める 憲

ワールド

独首相、トランプ氏「平和評議会」に慎重姿勢 構造に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 2
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な一部」ではないと指摘
  • 3
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味を帯びる「超高齢化」による「中国社会崩壊」
  • 4
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 5
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 6
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 7
    コンビニで働く外国人は「超優秀」...他国と比べて優…
  • 8
    老化の9割は自分で防げる...糖質と結び付く老化物質…
  • 9
    宇宙人の存在「開示」がもたらす金融黙示録──英中銀…
  • 10
    湿疹がずっと直らなかった女性、病院で告げられた「…
  • 1
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な一部」ではないと指摘
  • 4
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 5
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 6
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 7
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 8
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 9
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 10
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中