最新記事

ウクライナ戦争

ウクライナと心中覚悟のプーチン──なぜ私たちは核戦争のリスクを軽く見たがるのか?

Before a Nuclear War Begins

2022年10月19日(水)12時58分
アリエル・レビテ(カーネギー国際平和財団)、ジョージ・パーコビッチ(カーネギー国際平和財団)

中国もインドも、かねてから核の先制使用には反対してきた。だからプーチンに対して、核の先制使用に踏み切れば従来のような協力関係は維持できないと通告できる。

その一方で、これ以上の損失と戦闘の拡大を防ぐため、停戦に応じるべきだと説くこともできる。それがロシアのため、世界のためになる。

ただし現在の米中関係は最悪だ。習近平を誘い出すには、まずアメリカが一歩譲らねばなるまい。国内政治に足を引っ張られて、そういう働き掛けができないとしたら、それはアメリカの恥だ。

中国に対して講釈を垂れるような姿勢も禁物だ。どうすれば停戦の仲介に乗り出してくれるかを中国側に尋ね、その上で話し合う必要がある。

有意な停戦に必要な条件

どうしても習やモディが動かない、あるいはプーチンを説得できない場合は、仕方がない。かなり難しいが、アメリカと欧州各国がロシアとウクライナの指導者を説き伏せ、核の時代の論理を受け入れさせる必要がある。

そもそも、核戦争はウクライナ国民の利益にならない。プーチンに核のボタンを押させたら、ウクライナ国民を(そして世界を)守れない。

プーチンをそこまで追い込むことが、独裁者に対する正義の戦いだろうか。ひとたび核攻撃が始まれば、破壊のエスカレートを止める方法はない。西側が反撃すればロシアは引くだろうか。いや、むしろ西側がウクライナを止めさせると期待して、核攻撃を続けるかもしれない。

そうなったら、もう止まらない。アメリカや欧州、ウクライナにとって許容できる範囲でありつつ、かつロシア軍を以前の国境まで退却させるに足る核ミサイルの応酬とはどの程度のものか。

そんなことは誰にも分からない。いみじくもバイデンは言った。「戦術核に手を出し、それでもアルマゲドンを回避できる道があるとは思えない」と。

アルマゲドンまでいかなくても、核兵器が使われたらウクライナの人々を守れない。だから核のボタンが押される前に、停戦交渉に入る必要がある。それが全ての当事者のためになる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

香港の高層マンション群で大規模火災、36人死亡 行

ワールド

米特使がロに助言、和平案巡るトランプ氏対応で 通話

ビジネス

S&P500、来年末7500到達へ AI主導で成長

ビジネス

英、25年度国債発行額引き上げ 過去2番目の規模に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 7
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 8
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中