最新記事

ロシア

プーチンの部分動員令でロシア経済は回復腰折れか 生産性や需要に打撃

2022年10月14日(金)10時45分
バスに乗る予備兵に別れを告げる人たち

西側諸国による経済制裁のために既に打撃を受けているロシア経済が、今度は国内的な要因でさらに痛めつけられる展開になってきた。プーチン大統領が出した部分動員令が生産性に打撃を与え、需要と景気回復の足を引っ張る恐れが強まっているからだ。写真はロシア・オムスク州ボリシェレチエで25日、予備兵に別れを告げる人たち(2022年 ロイター/Alexey Malgavko)

西側諸国による経済制裁のために既に打撃を受けているロシア経済が、今度は国内的な要因でさらに痛めつけられる展開になってきた。プーチン大統領が9月21日に出した部分動員令が生産性に打撃を与え、需要と景気回復の足を引っ張る恐れが強まっているからだ。

これまでに何十万人もの男性が、徴兵されるか国外に逃亡した。西側の制裁にもかかわらず当初の想定より底堅く推移してきたロシア経済には、投資活動をまひさせてしまう不確実性という厄介な問題がのしかかりつつある。

セントロクレジットバンクのエコノミスト、エフゲニー・スボーロフ氏は「部分動員令や地政学的リスクと制裁リスクの高まりによって、経済危機の第2波が始まろうとしている」と語り、ロシア経済は年末にかけて一段と縮小すると予想した。

プーチン氏は今月6日、9月最終週の小売売上高が減少したことを踏まえ、政府に消費需要喚起の対策を講じるよう指示した。同氏は、唐突な部分動員令の発表と消費減退の関連性は一切認めていない。それでもロシア中央銀行は11日、経済活動が9月末に著しく鈍化したと指摘した。

大手銀行・ズベルバンク傘下のズベルインデックスが集計したデータに基づくと、9月19─25日の週に家計が食料品以外に支出した金額は前年比で12.7%減少し、その前の週の9.2%減から落ち込みが拡大した。9月26日から10月2日までの週も12.2%減と2桁のマイナスだ。

ルネッサンス・キャピタルのエコノミスト、ソフィア・ドネツ氏は「小売売上高、特に高額品と非食料品の分野では数カ月中に2桁マイナス圏に戻るだろう」とみている。小売売上高の前月比が直近で2桁のマイナスを記録したのは5月だった。

貴重な人的資本

ロシア経済発展省が今年の国内総生産(GDP)成長率について、12%を超えるマイナスになるとの見通しを発表したのが4月。それ以降は、原油高と経常収支の黒字拡大を追い風に、政府の経済見通しは着実に上向いてきた。

9月終盤にロイターが実施したアナリスト調査では、今年のロシアのGDP成長率の予想はマイナス3.2%で、経済発展省の予想は同2.9%。来年はアナリストの予想がマイナス2.5%なのに対して、経済発展省は同0.8%とはるかに楽観的だ。

だが、ロシアがウクライナでの軍事作戦強化を進めているのに伴って、ある程度姿を見せてきた景気回復は腰折れしかねない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、対ロ追加制裁に消極的 意図的な交渉遅延

ビジネス

インフレと失業の「難しいトレードオフ」を懸念=FO

ワールド

米、半導体設計ソフト企業に中国向け技術提供停止を命

ビジネス

NY外為市場=ドル連騰、関税巡る楽観論で 円は弱含
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」時代の厳しすぎる現実
  • 2
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「地上で最も幸せな場所」に家を買う方法と「必要な覚悟」
  • 3
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多い国はどこ?
  • 4
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 5
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 6
    「まさかの敗北」ロシアの消耗とプーチンの誤算...プ…
  • 7
    「餓死しない程度に飢えさせろ」...イスラエルの最大…
  • 8
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 9
    広島・因島の造船技術がアフリカを救う?...「もみ殻…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 1
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドローン母船」の残念な欠点
  • 2
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界の生産量の70%以上を占める国はどこ?
  • 3
    デンゼル・ワシントンを激怒させたカメラマンの「非礼すぎる」行為の映像...「誰だって怒る」と批判の声
  • 4
    アメリカよりもヨーロッパ...「氷の島」グリーンラン…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 6
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 7
    友達と疎遠になったあなたへ...見直したい「大人の友…
  • 8
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワ…
  • 9
    空と海から「挟み撃ち」の瞬間...ウクライナが黒海の…
  • 10
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 5
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 6
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 8
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 9
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 10
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中