最新記事

軍事支援

「汚職大国」ウクライナに供与された支援金と武器、無駄遣いで「消失」する危険

ARMING UKRAINE

2022年9月29日(木)18時12分
トム・オコナー(米国版シニアライター)
M777榴弾砲

アメリカから供与されたM777榴弾砲を撃つウクライナ軍兵士たち(7月) VYACHESLAV MADIYEVSKYYーUKRINFORMーFUTURE PUBLISHING/GETTY IMAGES

<アフガニスタンでは、アメリカからの支援金の3割が無駄遣いや汚職で「消えた」。監視・追跡の仕組みがないウクライナでも同じ間違いを繰り返すのか>

イスラム主義組織タリバンが政権を掌握したアフガニスタンから米軍が撤退し、20年にわたる泥沼戦争にようやく終止符が打たれてから1年。アメリカはまたも、戦争中の国への軍事援助と経済援助に莫大な金額をつぎ込んでいる。今度の相手は、ロシアの侵攻と戦うウクライナだ。

ジョー・バイデン大統領の就任以来、アメリカはウクライナに136億ドルの安全保障援助を約束してきた。さらに米議会は5月に約400億ドルの追加支援法案を可決しており、今後も支援は拡大しそうだ。

アフガニスタンでの経験が手掛かりになるとすれば、これらの資金の多くが流用され、悪用され、あるいはどこかに消えてしまう可能性が高いと、専門家は指摘する。「アフガニスタンに莫大な資金を投じたときと同じことが起きている」と、米政府のアフガニスタン復興担当特別査察官事務所(SIGAR)のジョン・ソプコ特別監査官は語る。

2020年のSIGARの報告書によると、アメリカがアフガニスタン政府に供与した資金約630億ドルのうち、約190億ドルが無駄遣い、汚職、乱用に消えた(ちなみにアメリカがアフガニスタン戦争に費やした金額は計1340億ドルだ)。

ウクライナへの支援金が同じような運命をたどらないようにするためには、もっと監視が必要だと、ソプコら専門家は警告する。「これだけ莫大な資金が一つの国に急に投入されるときは、最初から監視の仕組みを構築しておく必要がある」とソプコは言う。「だが、それが今は見当たらない。通常の監督機関は忙しくて手が回らないのが現状だ」

懸念されるのは、支援金の行方だけではない。ロシアから占領地域を奪還するための戦いは市街地で展開されることもあり、アメリカ製の武器を手にしたウクライナ軍が、一般市民を巻き添えにする恐れがある。

武器が敵対国や組織に横流しされる危険

アメリカが供給した武器がウクライナ経由で、アメリカに敵対する国や組織に横流しされる危険もある。「中東のテロ組織が、ウクライナから流出したジャベリン(携帯型対戦車ミサイル)を手に入れれば、甚大なダメージになる」と、米戦略国際問題研究所(CSIS)のマーク・キャンシアン上級顧問は語る。

過去の失敗を繰り返さないためには、ホワイトハウスと議会の両方に、ウクライナ紛争の状況を正直に説明する超党派の手続きを設けるべきだと、専門家らは訴えている。

ウクライナに対する軍事援助や経済援助の透明性を高めるために、SIGARのウクライナ版を設置するべきだとソプコは主張する。SIGARは、アフガニスタン復興事業に使われるアメリカの資金の流れを監視する政府機関として08年に設立され、四半期ごとに米議会に報告書を提出している。こうした監視体制は、シリアなどの紛争でもモデルになるはずだとソプコは言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米国版の半導体の集積拠点、台湾が「協力分野」で構想

ワールド

アフガン北部でM6.3の地震、20人死亡・数百人負

ワールド

米国防長官が板門店訪問、米韓同盟の強さ象徴と韓国国

ビジネス

仏製造業PMI、10月改定48.8 需要低迷続く
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「今年注目の旅行先」、1位は米ビッグスカイ
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつか…
  • 5
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 6
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 7
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中