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統一教会と関係を絶つとは何を意味するか。カルト対策に魔法の杖はない【石戸諭ルポ後編】

JUDGMENT DAY

2022年9月22日(木)11時09分
石戸 諭(ノンフィクションライター)

結局、主張の整合性など彼らは大事にしていない。彼らは使えそうな政治家に合わせて、強調するポイントを変えるだけだ。結果として旧統一教会の主張のなかでいくつかが、時の政権の主張と重なっていたと見るのが実証的な視点である。

本質は文夫妻が主張してきた大目標、例えば南北統一を推進するために信者に「勝利に近づいている」感を出すことにあったのではないか。それは、目先の目標のために多少の妥協はやむなしという姿勢の政治家との相性は良かったのだろう。

善悪の絶対化こそカルト思考

カルト対策として、日本でもフランスの「反カルト(セクト)法」が注目されている。これをテーマに論文を記した山形大学教授の中島宏(憲法学)によれば、フランス議会のセクト調査委員会は、カルトか否かを判断する「10の指標」、そして統一教会を含む173団体を名指ししたブラックリストを作成した。

10の指標には、「法外な金銭要求」「元の生活からの引き離し」「反社会的な説教」といった、いかにも統一教会を想起させる言葉が並ぶ。だがこの指標は裁判所で積極的に採用されているわけではないし、ブラックリストに至っては首相通達で否定されている。

指標で問題だったのは、基準が曖昧だったことだ。例えば、何をもって「反社会的」とするか。フランスにおいても疑問の声があることには注意が必要ではないか。

カルト的な団体や指導者が殺人や虚偽広告などで有罪判決を受けた場合には、裁判所が団体の解散を宣告し得ると規定されているが、中島が知る限りで解散に至った事例はない。

「反カルト法ができたときのフランス国内の世論は、今の日本と似ているかもしれない。リベラル左派の支持層にも、カトリック保守にも、『カルトは宗教ではない』、『カルトを取り締まろう』という主張は受け入れやすい。『カルトを根絶するぞ』と法を作ったものの、いざ取り組んでみると法律には曖昧な概念が多く含まれ、信教の自由との兼ね合いで慎重にならざるを得なくなった」

カルト対策に魔法の杖はない。フランスの対策から学ぶ点は、勢いよく反カルトを掲げても、結局は多くの宗教に「信教の自由」を認めた上で、個々の違法行為を厳しく取り締まっていくという方法に落ち着いた現実のほうにある。

その上で「子供が学校に行けなくなった家庭」に献金の返金を認めさせたり、違法行為が認定された宗教団体を教育現場で名指しして、入会をしないよう呼び掛けるといった具体的な方法の検討も必要だ。

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