最新記事

宇宙

1万光年先の超新星残骸の姿、データからスパコンが可視化

2022年9月20日(火)19時50分
青葉やまと(Pen Onlineより転載)

スーパーコンピュータ「セトニクス」が捉えた超新星残骸の画像。 新石器時代に爆発した可能性がある CREDIT:DR WASIM RAJA, DR PASCAL ELAHI

<オーストラリアで新たに稼働した最新のスパコン「セトニクス」が1万光年先の超新星残骸の姿を画像化した......>

1〜1.5万光年先にある超新星残骸の姿を、オーストラリアで新たに稼働した最新のスパコン「セトニクス(Setonix)」が画像化した。複雑な密度の差があるガスが球状に集積し、高エネルギーを放出している様子を確認できる。

今回画像化されたのは「G261.9+5.5」と呼ばれる超新星残骸で、100万歳以上の天体だと考えられている。47億歳と推定される太陽の倍以上の歴史をもつ天体だ。オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)の天文学者により、1967年に超新星残骸と確定された。

今回の画像はCSIROが運用する36基の電波望遠鏡で得られた膨大なデータをセトニクスに取り込み、多数の周波数の観測結果を統合し可視化したものだ。

CSIROの科学者たちは豪ニュース分析サイトの「カンバセーション」への寄稿を通じ、光ってみえる部分は圧縮された星間磁場に閉じ込められた高エネルギーの電子だと説明している。この電子を解析することで、星の成り立ちや周囲の星間物質に関する情報が得られる可能性があるという。

エネルギーを失った恒星の最期の姿

超新星残骸とは、死にゆく恒星が超新星爆発を遂げたあとに残る残骸を意味する。恒星は核融合反応によってその自重に耐えており、寿命を迎えて燃料がなくなり核融合反応が弱まると、超新星爆発と呼ばれる大爆発に至る。

高速で飛び散った恒星の外殻は強い衝撃波を生じ、周囲の星間空間に漂うガスやその他の物質を圧縮・加熱するほか、一帯の宇宙線を加速するなど各種の天文現象を引き起こす。こうして形成された超新星残骸の姿を可視化したのが今回の画像データだ。

電波望遠鏡による観測データは容量が膨大であり、処理に非常に高度な能力を必要とする。そのため本画像の描画処理は、新たなスパコンのストレステスト(負荷テスト)の題材としてうってつけだったようだ。

南半球最速のスパコン

解析を行ったスパコンのセトニクスはオーストラリア西部の要衝・パースに設置されており、現在テスト運用が行われている。本画像の計算は、セトニクスの大規模テストの第1弾として実施された。

豪エイジ紙によると、セトニクスは2段階で拡張される予定だ。第1段階として運用されている現在、計算を担う「コア」の数はおよそ6万5000個となっている。通常家庭で用いるパソコンが4コアから8コア程度であることと比較すると、まさに天文学的な数字だ。

今回の超新星残骸の画像はこれらのコアを稼働させ、約5時間を費やして作成された。テストは第1弾のシステムが完成してから24時間以内に完了するという迅速なものだったという。

第2段階までの拡張が完了するとシステム全体で20万コアとなり、計算能力は50ペタフロップスに達する。日本のスパコン「富岳」と比較すると9分の1程度だが、「京」の2倍程度となり、南半球では最速のスパコンとなる見込みだ。

計算技術の発達により、従来では不可能だったレベルの鮮明な画像で、遠い宇宙の天体の姿を捉えることができるようになってきているようだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

COP30が閉幕、災害対策資金3倍に 脱化石燃料に

ワールド

G20首脳会議が開幕、米国抜きで首脳宣言採択 トラ

ワールド

アングル:富の世襲続くイタリア、低い相続税が「特権

ワールド

アングル:石炭依存の東南アジア、長期電力購入契約が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 7
    Spotifyからも削除...「今年の一曲」と大絶賛の楽曲…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中