最新記事

気候変動

長引く干ばつに人工降雨で対抗する中国

China Has Started Geoengineering Rain Over Extreme Heat and Drought

2022年8月25日(木)17時17分
ジェス・トムソン

南西部の四川省では今年、例年に比べ51%も降雨量が減ったと、新華社通信が国営の送電会社・国家電網の地元支社の発表を伝えた。人民日報のオンライン版・人民網によると、中国では秋に収穫される穀物が、年間の穀物生産のおよそ75%を占める。

人工的な手法で降雨量が増えたとしても、ヨウ化銀から発生する有毒な銀イオンが生態系を汚染し、人体を脅かす懸念もある。人工降雨に使用されるヨウ化銀が、生体内に取り込まれて害を及ぼす危険性はないといわれているが、水生生物の体内に蓄積される「生物濃縮」はあり得るとの指摘もある。また1回に散布されるヨウ化銀はわずかでも、特定の地域で繰り返しこの技術が使用されれば、人体に安全な基準値を越える可能性もある。

さらに、この技術ではある地域に雨を降らせることはできても、それによって周辺地域の降水量が減り、トータルの降水量は変わらないともいわれている。

気候危機には「荒療治」も必要?

熱波や干ばつが数々の問題を引き起こすなか、短期的な解決策として、人工降雨のほかにも工学的なアプローチの開発が進んでいる。学術誌・米国科学アカデミー紀要オンライン版に8月12日に掲載された論文で、コーネル大学の研究チームは、太陽光を宇宙に反射させて地球温暖化を防ぐソーラージオエンジニアリングの潜在的なメリットを検証している。これは、成層圏エアロゾル噴射と呼ばれる技術で、大気上層部にエアロゾル硫酸塩をばらまき、太陽光を反射させて地球を冷やすというアイデアだ。

こうした壮大な工学的アプローチには長期的な影響などの懸念材料もあるが、深刻化する気候危機に対処するには、今後こうした措置も取らざるを得ないだろうと、論文は結論づけている。

二酸化炭素(CO2)の排出削減を精力的に進めても、温暖化の進行はすぐには止められないと、論文の筆頭執筆者のマクマーティンは述べている。「気候変動の影響を緩和するその他の戦略を補強するため、太陽光を反射する技術を用いるべきか否か、今後数十年のうちに人類は困難な選択を迫られることになるだろう」

中国当局は今のところ人工降雨計画の実施を発表していないが、四川省ではようやく雨が降りだした。

ニューズウィーク日本版 英語で学ぶ国際ニュース超入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年5月6日/13日号(4月30日発売)は「英語で学ぶ 国際ニュース超入門」特集。トランプ2.0/関税大戦争/ウクライナ和平/中国・台湾有事/北朝鮮/韓国新大統領……etc.

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、貿易戦争想定の経済予測を初公表 25年成長

ワールド

米下院特別委、ロ軍への中国人兵参加問題で国務省に説

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる

ビジネス

SHEIN、米事業再編を検討 関税免除措置停止で=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中