最新記事

人権問題

「国際刑事裁判所への復帰を考えず」 比マルコス新大統領、ドゥテルテの人権無視路線を継承か

2022年8月2日(火)20時31分
大塚智彦
ドゥテルテ大統領在任当時、マニラの大統領宮殿前でダイインを行い超法規的殺人に抗議する市民

ドゥテルテ大統領在任当時、マニラの大統領宮殿前でダイインを行い超法規的殺人に抗議する市民  Romeo Ranoco-REUTERS

<独裁政権の二世同士がコンビを組んだ新政権は、国際社会の批判を無視し続けるのか?>

フィリピンのマルコス新大統領は国際刑事裁判所(ICC)に再び加盟することはない、との考えを内外に示した。ドゥテルテ前大統領は麻薬関連犯罪の捜査で警察官らによる現場での容疑者射殺などを黙認したいわゆる「超法規的殺人」という政策を推し進めた。これに対し、ICCは「人権侵害の恐れがある」として予備捜査に乗り出し、反発したドゥテルテ前政権は2019年3月17日にICCから正式に脱退した。

フィリピン側は「もはやICCのメンバーではなく、捜査を受ける理由はない」としているが、ICC側は「メンバー国だった期間の犯罪は脱退後も捜査、訴追される可能性がある」として訴追に向けてドゥテルテ前大統領の捜査を進めているとされる。

こうした状況のなか、マルコス新大統領は8月1日にパシグ市のコロナワクチン接種会場で報道陣に対し「フィリピンはICCに再び参加するつもりはない」と明言して、ICCへの復帰とICCによる捜査への協力を否定した。

マルコス新大統領はこの姿勢を明確にする前に新閣僚による会議を設け、そこで意見を調整。この方針は政府としての総意であるとしている。

新大統領のドゥテルテ前大統領への配慮

今回のマルコス新政権の方針は、ドゥテルテ前大統領の訴追を逃れるための「政治的配慮」が背景にあるといわれている。

ドゥテルテ前大統領は歴代政権が反発を恐れて実行に踏み切れなかったマルコス新大統領の父親であるマルコス元大統領の遺体をマニラ首都圏にある「英雄墓地」への移送、埋葬を実現させた。

マルコス元大統領は1986年の民主化運動による「ピープルパワー革命(エドゥサ革命)」により政権を追われ、米ハワイに事実上亡命して1989年に彼の地で死去した。

その後遺体はフィリピンに運ばれ、ルソン島北部北イロコス州バタックにあるマルコス氏の実家敷地内に設置された冷凍設備完備の霊廟に保管され、写真撮影こそ禁止されているものの一般公開もされていた。

しかしイメルダ夫人をはじめとする親族は、マルコス元大統領の遺体を大統領経験者や戦没者らが眠るマニラ首都圏の「英雄墓地」への埋葬を長年訴えてきたが、マルコス政権下で父親が暗殺されたアキノ前大統領らが反対してきた経緯がある。こうした長年の課題について「国民の和解」を理由としてマルコス元大統領の英雄墓地埋葬を決定したのがドゥテルテ前大統領だった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英財務相、11月26日に年次予算発表 財政を「厳し

ワールド

金総書記、韓国国会議長と握手 中国の抗日戦勝記念式

ワールド

イスラエル軍、ガザ市で作戦継続 人口密集地に兵力投

ビジネス

トルコ8月CPI、前年比+32.95%に鈍化 予想
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 5
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 6
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 7
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 10
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中