最新記事

映画

ニコラス・ケイジ、トリュフを探し当てる愛しのブタを救い出す旅へ

Some Pig!

2022年7月22日(金)08時52分
カレン・ハン
ニコラス・ケイジ

森の奥で トリュフハンターのロブ(右)と相棒のブタは人里離れて暮らしていた COURTESY NEONーSLATE

<ブタを奪われ、復讐の旅......。「あの映画をパクったB級映画?」と思わせながらも、実は人間の実存的危機を描き切り、批評家大絶賛&映画賞総なめの話題の映画『PIG /ピッグ』>

「あのニコラス・ケイジが愛するブタを奪われて取り戻しに行く」。そんなストーリーを聞けば、いやでもある種の予感を抱いてしまう。予告編を見た多くの人が思ったはずだ。ああ、キアヌ・リーブスが愛犬の敵を討つためにロシアの悪党どもを殺しまくる復讐アクション映画『ジョン・ウィック』(2014年)のブタ版か、と。

だが、『PIG/ピッグ』は違う(日本では新宿シネマカリテで7月15日から期間限定上映)。もちろん殺しの場面はあるが、それが見せ場ではない。監督のマイケル・サルノスキが本作で描くのは人間の実存的危機だ。

主人公のロブ(ニコラス・ケイジ)は、高価なトリュフを探し当てる貴重なブタと一緒に暮らしていた。ほかに伴侶はいない。米オレゴン州ポートランドの外れにある森に入り、ブタに助けられてキノコを採集し、粗末な小屋に持ち帰るだけの日々。

元料理人のロブは、ブタの餌も丁寧に用意する。何かのトラウマを抱えているに違いないが、表面上は穏やかに暮らしており、訪ねてくるのはトリュフ販売業者のアミール(アレックス・ウルフ)だけだ。

アミールとロブは対照的だ。アミールは商売上手で、言ってみればドラマ『メディア王~華麗なる一族~』に出てくるローマンとケンダルを足して2で割ったような人物。しかし、ロブには彼しかいない。だから2人でブタを救い出す旅に出る。

満腹よりは腹八分目で

もちろん流血のシーンも1つはある。だが『ジョン・ウィック』と似ているのはそこまで。監督はポートランドの美食シーンの裏にある醜悪な迷路を克明に描く。この映画は先が読めない。ストーリーは単純かつ明快だが、私たちの予想を次々と裏切る。

ロブは誰にも止められない嵐のような男だが、『ジョン・ウィック』のリーブスのような格闘はしないし、鉛筆で人を殺したりもしない。

その代わり、ロブの過去がゆっくりと、つまびらかに描かれていく。そしてたいていの人が怖くて下せないような決断を彼が下せる理由が明らかになる。派手さはないが、心理描写が抜群だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米雇用統計、4月予想上回る17.7万人増 失業率4

ワールド

ドイツ情報機関、極右政党AfDを「過激派」に指定

ビジネス

ユーロ圏CPI、4月はサービス上昇でコア加速 6月

ワールド

ガザ支援の民間船舶に無人機攻撃、NGOはイスラエル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中