最新記事

動物

温暖化で新種のクマが誕生?──実は喜ばしくない理由とは

New Mating Patterns?

2022年6月30日(木)14時39分
ロビン・ホワイト
クマ

ホッキョクグマとハイイログマの交雑種が温暖化によって増える可能性も FROM LEFT: JUSTINREZNICK/ISTOCK, SARKOPHOTO/ISTOCK

<温暖化が進むことで異なる種族の生活圏が重なるようになり、異種交配が進む。しかし、それが必ずしも好ましいことではないのはなぜか? むしろ絶滅が先ということも......>

北米大陸の森にすむハイイログマ(英語ではグリズリー)と、北極海の氷上で暮らすホッキョクグマ(英語ではポーラーベア)。その生活圏が交錯することはめったにないが、何らかの理由で両者が交雑、つまり異種交配することは昔からあった。そうした稀有な例は、英語名を足して2で割って「ピズリー」と呼ばれてきた(最近では遺伝子検査によって8体のピズリーの存在が2017年に発表されている)。

しかし、このまま地球温暖化が進めば両者の生活圏が交錯する機会は増え、当然のことながら交雑の機会も増え、結果としてクマの新種が誕生する可能性もあるという。ニューヨーク州立大学バッファロー校の生物学者シャーロット・リンドクビストらが今年6月、米科学アカデミーの紀要で明らかにした。

リンドクビストらは大昔のホッキョクグマの歯の化石から検出されたDNA情報を解析し、「このホッキョクグマが少なくとも1回、ハイイログマの遺伝子を受け入れていたことを確認した。その時期は、15万年以上も前と考えられる」としている。

ロマンチックな話ではない。もともとホッキョクグマは極地の厳しい生息環境に適応するよう進化してきた。例えば耳が小さいのは、熱が奪われるのを防ぐため。長い年月をかけて獲得してきたこれらの形質が異種交配で損なわれるのは、決して好ましいことではない。

リンドクビストは本誌の取材に、ホッキョクグマとハイイログマが最初に異種交配をした時期は不明だと述べた。

接触の機会が増えたら

「それが昔のことであればあるほど、その痕跡を現在の個体群のDNAで特定するのは難しい。でも私たちは既に、11万5000~13万年前のホッキョクグマのDNAにハイイログマのDNAが交じっているのを確認している」

ただし、そうした異種交配のチャンスはめったになかった。なぜか。リンドクビストによれば、最大の理由は両者の生息圏がほとんど重ならないことだ。

「しばらく前にカナダ北極圏で交雑種が確認されたのは事実だが、ごくまれなケースと思われる。普通とは違う好みの持ち主が、たまたま出会った結果だろう」と、リンドクビストは言う。

ただし気候変動の影響で両者の生息圏が変化し、接触の機会が増えれば、今後は異種交配がさらに増え、それが新たな種の誕生につながる可能性はあると言う。

「生物は常に進化の途上にあるから、いずれクマの新しい種が誕生する可能性は否定できない。でも、私たちが生きているうちにそれが起きる可能性は低い」とリンドクビストは述べ、続けた。

「ホッキョクグマの暮らす北極海の氷が今のペースで減り続ければ、残念ながら新種の誕生よりも先に絶滅の日が来てしまう」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英ユダヤ教会堂襲撃で2人死亡、容疑者はシリア系英国

ビジネス

世界インフレ動向はまちまち、関税の影響にばらつき=

ビジネス

FRB、入手可能な情報に基づき政策を判断=シカゴ連

ビジネス

米国株式市場=主要3指数最高値、ハイテク株が高い 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 4
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 5
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 6
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 7
    1日1000人が「ミリオネア」に...でも豪邸もヨットも…
  • 8
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 9
    AI就職氷河期が米Z世代を直撃している
  • 10
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 1
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 8
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 9
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 10
    琥珀に閉じ込められた「昆虫の化石」を大量発見...1…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中