最新記事

台湾有事

アメリカは「どこまで」台湾を守るか

Will U.S. Defend Taiwan if China Invades? Experts Weigh In

2022年6月6日(月)18時19分
ジョン・フェン(本誌記者)

2月にロシアのウクライナ侵攻が始まって以来、米議会の議員たちは中国がいつ、同じような行動にでるのかという疑問についての政府の見解を問い続けてきた。

政府各部門の回答は一貫していた。アブリル・ヘインズ国家情報長官によれば、中国は20年代の末までにアメリカの介入に打ち勝って、台湾を支配下におさめたいと考えている。

国防総省のエリー・ラトナー国防次官補(インド太平洋安全保障担当)は3月の下院委員会の公聴会で、こうしたシナリオにおけるアメリカの対応は、ウクライナ支援とは異なるものになるだろうと述べ、「台湾有事の際、最も親しい同盟国の一部は我々と共に行動することを確信している」と語った。

5月23日に岸田文雄首相と共に東京での共同記者会見に臨んだバイデンは、台湾有事が起きた場合に米国が軍事的に関与するかを問われ「イエス。それが我々の約束だ」と発言した。

バイデンは後に否定したが、この発言は、40年以上にわたってこの問題について明言を避けてきたアメリカの慎重な姿勢の転換に見えた。この慎重な姿勢は「戦略的曖昧さ」として知られる政策で、アメリカは台湾を軍事的に防衛する可能性を公に約束もしないし、否定もしない、というものだ。

あいまい戦略の終わり

一方台湾は、単独で戦う準備ができていると言いつつも、中国人民解放軍の軍事力増強が続いているため、アメリカに武器売却の促進を要請している。

専門家によれば、中国はバイデンが口を滑らせるずっと以前からアメリカの介入を想定していたという。

「中国にとってバイデンの発言は、アメリカの戦略的あいまいさに対する現在の『答え』をさらけだすものだったかもしれない」と言うのは、台湾の軍事シンクタンク、国防安全研究院の洪子傑助理研究員だ。「だが中国はもう長い間、アメリカの軍事介入の可能性を考慮してきた。バイデンの発言が中国の戦略的思考を変えるとは思わない」

「例えば、中国は過去数十年にわたり、西太平洋における海軍力と接近阻止・領域拒否(A2/AD)能力を発展させ続けてきた。狙いは中国軍の作戦地域に米軍を進出させないことだ」と洪は語った。

人民解放軍は通常兵器と核兵器の両方で長距離打撃能力を──台湾に向けて使うことはないだろうが──急速に伸ばしてきており、すでにグアムは射程圏内だ。

台湾・国防安全研究院の蘇紫雲研究員に言わせれば、アメリカの姿勢は変わった。「バイデン大統領は台湾防衛への関与について何度か言及している」と蘇は言う。「中国軍の冒険主義を牽制するための明確な戦略的シグナルだ」

「(アメリカの)政策は明確だが、戦略はあいまいだ。つまり目的が(台湾海峡の)現状維持なのははっきりしているが、手段は変わりうるということだ」

アメリカが台湾防衛に前向きになる戦略地政学上の明確な理由を蘇はいくつか挙げた。ちなみに台湾は、いわゆる「第1列島線」(沖縄から台湾、フィリピンを結ぶ中国にとっての対米防衛ライン)の中央に位置する。

台湾周辺海域は船の航行が多い。日本の生命線と言うべきエネルギー源の大半(輸入する原油の90%、液化天然ガスの76%)は台湾周辺海域を通って運ばれると蘇は言う。

米西海岸も中国の射程に

また、台湾とフィリピンの間のバシー海峡は、米本土の防衛にとって非常に重要だ。蘇の分析では、中国の潜水艦がここを通って西大西洋に出れば、米西海岸が弾道ミサイルの射程に入るという。

アメリカのコンサルティング会社、パーク・ストラテジーズのショーン・キング副会長は、バイデンの発言は本心からのものだと考える。「彼は上院議員時代の1979年、台湾関係法に賛成票を投じた(つまり問題はきちんと理解しているということだ)。最近では、中国本土からの攻撃に際しては台湾をアメリカが守るだろうと3回も述べている」

「アメリカの政策が変わったのではなく、台湾支持の感情がアメリカで高まっていることのシグナルだ」

もっとも、台湾を防衛すると言っても、事はそう単純ではないとキングは言う。アメリカと台湾の間に正式な外交関係がないというのがその理由だ。

本来なら緊密なパートナーであるはずなのに、外交関係がないために米台間では合同防衛戦略のすり合わせができない。さらに、日本や韓国といった同盟国との間では当たり前の相互運用性についての議論もできていない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

欧州7カ国、デンマーク支持表明 トランプ氏がグリー

ワールド

有志連合のウクライナ安全保障、拘束力ある約束含む 

ビジネス

中国人民銀、今年預金準備率と金利引き下げへ 適度に

ワールド

スイスのバー火災、19年以降安全点検なし 首長が謝
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AI兵士の新しい戦争
特集:AI兵士の新しい戦争
2026年1月13日号(1/ 6発売)

ヒューマノイド・ロボット「ファントムMK1」がアメリカの戦場と戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...強さを解放する鍵は「緊張」にあった
  • 3
    日本も他人事じゃない? デジタル先進国デンマークが「手紙配達」をやめた理由
  • 4
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 5
    「見ないで!」お風呂に閉じこもる姉妹...警告を無視…
  • 6
    スペイン首相、アメリカのベネズエラ攻撃を「国際法…
  • 7
    衛星画像で見る「消し炭」の軍事施設...ベネズエラで…
  • 8
    砂漠化率77%...中国の「最新技術」はモンゴルの遊牧…
  • 9
    野菜売り場は「必ず入り口付近」のスーパーマーケッ…
  • 10
    若者の17%が就職できない?...中国の最新統計が示し…
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 3
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙」は抑止かそれとも無能?
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 6
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 7
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 10
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中