大学院博士課程を「フリーター生産工場」にしていいのか?

博士課程修了生は学部卒業生よりも、非正規就職や進学でも就職でもない人の割合が多い photoAC
<特に文系の博士課程修了者の進路先は厳しいのが現状で、高度の専門性を持った人材をもっと社会で活用しなければならない>
文科省は、経営難の私大の撤退を促す方針を明らかにした。余力のあるうちから撤退の準備を進めさせ、在学生への影響が極力出ないようにするためだ。経営が苦しい私大は増えていて、私大を運営する学校法人の2割が経営困難、自力再生が難しい状況にあるという(私学事業団)。18歳人口がどんどん減るなかで、社会からの需要がなくなっているので「ご退場いただきたい」ということだ。
当然、大学教員のポストも減少し、大学院博士課程修了者の行き先もなくなってくる。大学院とは「学術の理論及び応用を教授研究し、その深奥をきわめ、又は高度の専門性が求められる職業を担うための深い学識及び卓越した能力を培い、文化の進展に寄与すること」(学校教育法99条)を目的とし、高度職業人を育成する機関だ。だが博士課程は未だに研究者養成が主で、文系の場合は、大学教員しかほぼ行き場がないのが現状だ。
時は高度経済成長期。1964年5月時点の大学本務教員は5万4408人で、翌年5月時点では5万7445人。よって、この1年間に発生した大学教員需要は3037人となる。1965年春の大学院博士課程修了者は2061人。この時代は、需要(求人数)が供給(求職数)を上回っていたようだ。しかし今は違う。<図1>は、この2つの数値がどう変わってきたかをグラフにしたものだ。
需要と供給が乖離しているのが分かる。需要の減少、供給の激増。1965年では「需要100:供給68」だったが、2024年では「需要100:供給2400」。昔は売り手市場だったが、現在では完全な買い手市場となっている。1つのポストを24人が奪い合う構図だ。博士の全員が大学教員を志すのではないので、実際の競争率は15倍ほどになると思うが、文系に限ると30倍、下手したら50倍にはなるだろう。
市場になだれ込んでくる博士は90年代以降急増しているが、これは国が推し進めた大学院重点化政策による。「民間企業からの博士への需要も増えるだろう」と見込んでのことだったが、そうはならず、行き場のないオーバードクターの増加が社会問題化した。2007年以降、博士課程修了者は横ばい(微減)になっているが、行き場がないことが知れ渡り、博士課程入学生が減ったためと思われる。水月昭道氏の『高学歴ワーキングプア 「フリーター生産工場」としての大学院』が刊行されたのは、奇しくも2007年のことだ。