大学院博士課程を「フリーター生産工場」にしていいのか?
大学教員市場の閉塞化に伴い、博士課程修了者の進路も厳しいものとなっている。2024年春の進路内訳をグラフで視覚化すると、<図2>のようになる。
学部卒業者では無期雇用(正社員をはじめ雇用期間に定めがない労働契約)就職者が多いが、博士課程では非正規雇用就職(緑色)、進学でも就職でもない者(赤色)の割合が高い。この2つは不安定進路とみなせるが、博士課程修了者では半分、社会科学専攻に限ると4分の3にもなっている。
大学院へは公金が投じられているが、そのリターンが得られないとあっては、大学院の撤退支援もされるようになるかもしれない。「1億円かけてフリーター」という見出しが新聞に踊り、職のない博士を雇った企業に500万円の謝礼金を払う政策があったが、「1億円かけて博士を育て、その博士を雇ってもらうのに500万円払う」など、コントでしかない。「博士課程の学生募集を当面、停止すべき」という意見が出るのも無理からぬことだ。
しかし博士課程の顧客は変わってきていて、修士課程からストレートに上がってくる学生は減っているものの、社会人の入学者は増えている。その中には高齢者も含まれ、余生の目標を学位取得に定めた、という人もいるだろう。博士号取得者を高校教員として雇う自治体もあり、高度な専門性に裏打ちされた授業は分かりやすいと好評だ(秋田県)。
大学院という「知の源泉」を枯らすのではなく、それを活かす方途を探るべきだ。博士課程については暗い話がまとわりつくが、「顧客は20代の若者、機能は研究者養成」という伝統的な像に固執しているからだ。今後の状況変化を考えるなら、社会から期待される役割はまだまだ大きいと言えるだろう。
<資料>
文科省『学校基本調査』