最新記事

ロシア

ついにロシアを見限った、かつての「衛星国」たち

Out of Russia’s Orbit

2022年5月19日(木)18時42分
エリカ・マラト(米・国防大学准教授)、ヨハン・エングバル(スウェーデン国防研究所)

220524p36_RBR_02.jpg

2021年5月、黒海沿岸で船旅をするロシアのプーチン大統領とベラルーシのルカシェンコ大統領 SERGEI ILYIN-KREMLIN-SPUTNIKーREUTERS

民衆も抵抗する機運

これら中央アジアと南カフカス地方の国々では、市民レベルでロシアの戦争への抵抗が続いている。

中小企業が自社製品に「ウクライナに栄光あれ」というステッカーを貼り付けたり、市民団体がウクライナ向けの人道支援物資を集めたりしている。ウクライナ国旗の色と同じ青と黄の服を着て街を歩く市民もいる。侵攻したロシア軍の戦車などに記されたZやVの文字はどこでも嫌われており、その使用を禁じた地域もある。

社会主義を掲げたソ連も結局は植民地主義の大国だったという認識が、今はかつてのソ連圏諸国を連帯させ、これら諸国を再び支配しようとするプーチン政権への反感と抵抗を募らせている。

今のロシアがウクライナやジョージアでやっていることは21世紀版の帝国主義であり、絶対に許せない──。そう思う人は増えていて、それなりの政治的自由がある諸国では、ロシアの優越性を認めない世論が高まる傾向にある。

カザフスタンではスターリン時代に食糧不足で何百万もの国民が餓死しているが、そのことの政治的責任を問う声が、今は一部の学者だけでなく一般市民にも広がっている。同様にジョージアやキルギスでも、ソ連時代に民族派の知識人が粛清された事実の再検証が始まっている。

国際社会では今も、かつてのソ連が地域の、とりわけ中央アジアの近代化を進めたという解釈が根強い。それが世界中で反植民地主義の動きを加速したという評価もある。

だが、その負の遺産を明らかにしたのが今回のウクライナ戦争だ。かつてのソ連と同様、プーチン政権も全体主義であり、支配下にある全ての民族にロシア文化を押し付けようとしている。

もうたくさんだと、旧ソ連圏諸国の人々は思っている。アルメニアでもジョージアでも、キルギスやモルドバ、ウクライナでも数年前から民衆が立ち上がり、ソ連時代から続く「警察国家」の変革を求めてきた。

民衆レベルで反体制の声が高まるのは、それだけ本物の政治参加と自由選挙を求める思いが強まっている証拠だ。いまウクライナ人がロシアの侵略軍と戦っているのも、強権支配を拒んで民主主義を確立するためだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:闇に隠れるパイロットの精神疾患、操縦免許剥奪

ビジネス

ソフトバンクG、米デジタルインフラ投資企業「デジタ

ビジネス

ネットフリックスのワーナー買収、ハリウッドの労組が

ワールド

米、B型肝炎ワクチンの出生時接種推奨を撤回 ケネデ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中