最新記事

アマゾン

「人間の尿道に侵入する魚」 アマゾンのカンディルの謎

2022年4月28日(木)17時00分
松岡由希子

「アンモニアに反応して人間を襲い、尿道などから侵入する」との言い伝えられてきたカンディル YouTube

<アマゾンでは、「カンディルがアンモニアに反応して人間を襲い、尿道などから侵入する」との言い伝えがあり、川を泳いでいる間に排尿しないように呼び掛けられてきた......>

カンディルとは、南米北部のアマゾン川上流域やオリノコ川流域に生息するナマズ目の肉食淡水魚だ。

体長は最長17センチ程度で、半透明で細く、針状の小さな鋭い歯を持つ。獲物は大型ナマズやピラピチンガ、ピラニア・ナッテリー、コロソマなどの大型淡水魚で、濁った川底に潜み、獲物のエラから排泄される尿素やアンモニアを感知し、獲物のエラから体内に侵入して血液を吸うとされている。

「アンモニアに反応して人間を襲い、尿道などから侵入する」との言い伝え

アマゾンでは、「カンディルが尿素やアンモニアに反応して人間を襲い、尿道などから侵入するおそれがある」との言い伝えがあり、川を泳いでいる間に排尿しないように呼び掛けられてきた。

1929年に出版された米魚類学者ユージーン・ウィリス・ガッジャー博士の著書「ザ・カンディル」では、シングー川の源流域に居住するボロロ族の男性が着用していた「イノブド」と呼ばれる局部保護用プロテクターやバカイリ族の女性が身に着けていたプロテクター「ウルリ」について記述されている。

カンディルに襲われた患者への治療に関する記録も残されている。アマゾン川の支流マデイラ川で海軍軍医を務めたチャールズ・アマーマン医師は「患者からカンディルを除去する手術を1910年から1911年までに数回行った」と語った。

また、1941年に学術雑誌「アメリカン・ジャーナル・オブ・サージェリー」で掲載された13歳男性の症例では、チブサノキの果実を尿道口の中に挿入したり、この果実でできた温かい茶を飲むといった治療法が示されている。

しかしながら、カンディルがヒトの尿道内を移動した例は科学的に検証されていない。また、長年の言い伝えに反して、ブラジル・国立アマゾン研究所(INPA)らの研究チームが2001年に発表した研究論文では、カンディルがアンモニアや魚の粘液、人尿に反応しなかったことが示されている。

先住民からの言い伝えが何度も繰り返された?

豪ジェームスクック大学のイルムガルト・バウアー博士は、カンディルに関するこれまでの学術文献などを分析し、2013年1月に学術雑誌「ジャーナル・オブ・トラベル・メディシン」で研究論文を発表した。

これによると、カンディルは、独植物学者カール・フリードリヒ・フィリップ・フォン・マルティウス博士によって初めて記述され、19世紀から20世紀前半にかけて欧州の学者や探検家らによってたびたび記述されてきた。ガッジャー博士は1930年に「アメリカン・ジャーナル・オブ・サージェリー」で2本の論文を発表しているが、自身は現地に行ったことがなく、当時入手可能であった情報をまとめたとみられる。

これらの記述は、先住民からの言い伝えが何度も繰り返されたものかもしれない。バウアー博士は「今となっては、人間がカンディルに襲われたことを証明する真の目撃者を特定することはほぼ不可能であり、『残された記述のうちのいくつかは確かに真実かもしれない』と信じるほかない」とし、「『カンディルは人間を襲う準備をして川の中で待っている』という証拠はない」と結論づけている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米CB消費者信頼感、3月は予想外に上昇 雇用巡る楽

ビジネス

FRB副議長、SVBリスク管理体制「ひどい」 2月

ワールド

米、ロシアの新START履行停止受け核戦力データ交

ワールド

WHO、コロナワクチン接種勧告を修正 健康な子ども

今、あなたにオススメ

MAGAZINE

特集:小泉悠×河東哲夫 ウクライナ戦争 超分析

2023年4月 4日号(3/28発売)

戦争の「天王山」/ウクライナ戦車旅団/プーチンの正体......。日本有数のロシア通である2人の特別対談・前編

メールマガジンのご登録はこちらから。

人気ランキング

  • 1

    「見られる価値のない体なんてない」 車椅子に乗った障がい者女性が下着モデルに...批判にも大反論

  • 2

    金融のドミノ倒し、次はドイツ銀行か

  • 3

    大丈夫? 見えてない? テイラー・スウィフトのライブ衣装、きわどすぎて観客を心配させる

  • 4

    重戦車が不足するロシア、ウクライナ東部バフムトへ…

  • 5

    遅ればせながら岸田首相がウクライナ訪問、実は絶妙…

  • 6

    大事な部分を「羽根」で隠しただけ...米若手女優、ほ…

  • 7

    ChatGPTは大学教育のレベルを間違いなく高める――「米…

  • 8

    日本よ、留学生を「優遇」する国であり続けて

  • 9

    真剣な顔でプーチンの演説を聞くロシア議員、その耳…

  • 10

    「人生観が変わった」太宰治がアメリカで人気...TikT…

  • 1

    大事な部分を「羽根」で隠しただけ...米若手女優、ほぼ丸見えドレスに「悪趣味」の声

  • 2

    女性支援団体Colaboの会計に不正はなし

  • 3

    「見られる価値のない体なんてない」 車椅子に乗った障がい者女性が下着モデルに...批判にも大反論

  • 4

    大丈夫? 見えてない? テイラー・スウィフトのライ…

  • 5

    「この世のものとは...」 シースルードレスだらけの…

  • 6

    インバウンド再開で日本経済に期待大。だが訪日中国…

  • 7

    「次は馬で出撃か?」 戦車不足のロシア、1940年代の…

  • 8

    「ベッドでやれ!」 賑わうビーチで我慢できなくなっ…

  • 9

    老人自ら死を選択する映画『PLAN 75』で考えたこと

  • 10

    復帰した「世界一のモデル」 ノーブラ、Tバック、シ…

  • 1

    大事な部分を「羽根」で隠しただけ...米若手女優、ほぼ丸見えドレスに「悪趣味」の声

  • 2

    推定「Zカップ」の人工乳房を着けて授業をした高校教師、大揉めの末に休職

  • 3

    訪日韓国人急増、「いくら安くても日本に行かない」との回答も一変......その理由は?

  • 4

    「ベッドでやれ!」 賑わうビーチで我慢できなくなっ…

  • 5

    【写真6枚】屋根裏に「謎の住居」を発見...その中に…

  • 6

    1247万回再生でも利益はたった328円 YouTuberが稼げ…

  • 7

    ざわつくスタバの駐車場、車の周りに人だかり 出て…

  • 8

    年金は何歳から受給するのが正解? 早死にしたら損だ…

  • 9

    プーチンの居場所は、愛人と暮らす森の中の「金ピカ…

  • 10

    【悲惨動画3選】素人ロシア兵の死にざま──とうとう…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story