最新記事

アメリカ

誰もが予想した軍事大国アメリカの「不備」──中国に「船」で苦戦する理由

2022年4月21日(木)17時07分
アレックス・ルーハンデー
商船

ニューヨークを出港する中国企業所有・パナマ船籍の貨物船。アメリカの商船数は激減しており台湾有事には不安が RAMIN TALAIEーCORBIS/GETTY IMAGES

<有事には軍隊の補給品を運ぶ役割を担う「商船」の数が、アメリカは中国やロシアに大きく後れを取っている>

言わせてもらえば、ロシアによるウクライナ侵攻は昨年8月にアメリカがアフガニスタンから完全撤退して以来、誰もが予想していたことではないのか。

あれでアメリカは少なくとも当分の間、中東その他の地域から手を引き、宿敵の二大国、つまり中国とロシアとの競争に専念すると実質的に宣言したのだった。それを受けて、まずロシアがアメリカの覚悟を試そうと動いた。

確かにアメリカは軍事大国だが、その洋上作戦を詳しく検証してきた専門家から見れば、有事への備えには決定的な不備がある。

太平洋の向こうで中国と衝突する事態が起きたとき、この点が「アキレス腱」となって(ウクライナに侵攻したロシア軍が現時点でそうであるように)アメリカが大苦戦を強いられる可能性もあるという。

国連貿易開発会議(UNCTAD)によると、中国は世界の商船の40%を建造し、12%近くを所有している。対するアメリカの所有率は3%に届かず、建造率はわずか0.1%だ。

「いざ紛争が起きたとき商船隊の不足が弱点になるかと言われれば、答えはイエスだ」。アジアの海運事情に詳しい米シンクタンク「戦略国際問題研究所」のグレゴリー・ポリングは本誌にそう述べた。

「第2次大戦以降にアメリカが経験した各種の紛争では、商船隊に頼るような状況が一度もなかった。だから広域的な紛争における商船隊の重要性が忘れられていた」

米国旗を掲げて航行する民間の船舶で、平時には貨物を運ぶが、有事には軍隊の補給品を運ぶ役割を担う──それが「アメリカの商船隊」だが、その数は中国やロシアに大きく後れを取っている。

商船隊は海軍や海兵隊ほど目立たない。だが歴史的には、戦時に重要な役割を果たしてきた。スミソニアン誌によれば、第2次大戦中は自国および連合国に「必須な」物資を輸送し、「その乗組員の死傷率は海軍艦艇よりも高かった」という。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

停職中のタイ首相ペートンタン氏、倫理調査の対象に

ワールド

台湾総統、8月にパラグアイ訪問へ 米国経由の可能性

ワールド

ラブロフ外相が中国の習近平国家主席と会談=ロシア外

ワールド

インドネシア、ECプラットフォームに出品者収入の源
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 2
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 3
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別「年収ランキング」を発表
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 6
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 7
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 10
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中