最新記事

アメリカ

誰もが予想した軍事大国アメリカの「不備」──中国に「船」で苦戦する理由

2022年4月21日(木)17時07分
アレックス・ルーハンデー

補給を担う船員が足りない

米輸送軍(USTRANSCOM)のスコット・ロス報道官は本誌への書面回答で、「商船隊はわが国の海上輸送能力の要」であり、「商船隊の有能な船員なくして、わが国の戦略的海上輸送は成り立たない」とした。

また「米運輸省海事局(MARAD)の評価によれば、緊急時に動員される艦隊と商船隊の全てに乗り込んで戦時下に対応できるだけの船員数は確保されている」としつつも、「艦隊と商船隊の双方が想定以上に長期の作戦遂行を求められる事態になれば苦しい」と認めた。

NW_AMC_01-202204212.jpg

バーレーン沖の米掃海艇。海運能力の低さは大きな弱点 SMITH COLLECTIONーGADO/GETTY IMAGES

船員労働組合「船長・航海士・水先案内人国際組織」のドン・マーカス会長は本誌に、「深刻な戦争が起こった場合、(船と人材の)維持が問題になる」と指摘した。

「危機対応で長期にわたる海上輸送を担うに足る船員がいるとは言えない」

アメリカの現在の船員数でも2~3カ月なら米軍に十分な支援を提供できるが、それ以上に長引くと船員の交代が必要になり、その場合は数が足りなくなるという。

実際、海事局のマーク・バズビー長官(当時)は2018年4月、上院商業科学運輸委員会の小委員会で、アメリカには船員が約1800人不足していると述べている。

台湾は中国本土の沿岸からわずか160キロ程度しか離れていないため、米軍が台湾を防衛する場合、敵地に近づき本国からは遠く離れることになる。

アメリカにとって最大のライバルである中国と戦うことになれば、そう簡単に短期で決着がつくとは思えない。

下院軍事委員会の海上戦力小委員会に所属する共和党議員のロブ・ウィットマン(バージニア州選出)は本誌に対し、中国との戦争に勝利するには補給面の調整が死活的に重要だと指摘した。

「第2次大戦の時にオマー・ブラッドリー元帥が名言を残している」とウィットマンは言った。「(戦争の)素人は戦略を語るが、専門家は補給を語るのだと」

ウィットマンは、中国が台湾に侵攻した場合、アメリカは台湾への「(防衛)義務を果たさなければならない」とし、そのためには何らかの軍事作戦が必要になると説明した。

そして戦闘が1カ月続けば、太平洋越えの海上輸送を行う必要が生じる可能性が高いが、そうなればアメリカは補給面でかなり苦しい状況に追い込まれるとみる。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

EXCLUSIVE-グレンコア、英アングロへの買収

ワールド

中国軍機14機が中間線越え、中国軍は「実践上陸訓練

ビジネス

EXCLUSIVE-スイスUBS、資産運用業務見直

ワールド

ロシア産肥料を米企業が積極購入、戦費調達に貢献と米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中