最新記事

香港

「映画検閲法」に挑む新世代──90年代の香港映画ファンにこそ見てほしい

2022年4月22日(金)17時33分
クリスタル・チャウ
ビクトリア湾

『憂鬱之島』の1シーン。海を渡って文化大革命から避難した男性は、今も夜明けのビクトリア湾で泳ぐことを生涯の習慣としている COURTESY CHAN TZE WOON

<映画検閲法が成立しても、あえて微妙なテーマにも取り組む新世代の映画人たち。「最悪の香港」が「最高の映画」を生む>

中国が香港国家安全維持法を施行してから、もうすぐ2年。その「鉄のカーテン」は、かつて活況を呈した当地の映画界をも閉ざそうとしている。

香港では昨年10月、反体制活動を「たたえ」、「あおる」ような映画の上映を禁じる映画検閲法案が可決された。当局が有害と見なした映画のライセンスは取り消され、違反者には最高で禁錮3年の刑が科されることになる。

法案成立前の昨年6月にも、2019年の民主化デモをテーマにしたドキュメンタリー映画『理大囲城』の上映許可が土壇場で取り消された。これで映画検閲法が施行されたら、アジア(ばかりか世界)に冠たる香港映画も終わりだ──そう嘆き、あるいは予想する人は少なくない。

そのとおりかもしれない。実際、香港で製作される映画の本数は年間200本以上の新作が公開されていた1990年代前半の全盛期に比べて大幅に減っている。しかし新世代の映画人には、このまま香港映画を死なせるつもりはない。

中華圏のアカデミー賞といわれる金馬奨の候補にノミネートされた『少年』の共同監督である林森(ラム・サム)は「映画業界への包囲網が狭まっているのは確かだ」と語る

「でも創作の意欲を持ち続けていれば、それを実現する方法は必ず見つかる」

実際、『少年』は7万7000米ドルに満たない自己資金を元に、最低限のスタッフで19年半ばに撮影を始めた。香港で、いわゆる逃亡犯引き渡し条例をめぐる大規模デモが起きていた頃のことだ。

その後、新型コロナのパンデミックで制作活動は1年近く中断された。そして撮影と編集が終わった頃には、映画検閲法が成立。『少年』は暴力と自殺を「美化している」として上映禁止となり、配給会社は手を引いた。

「不可能」の文字はない

『少年』は、抵抗者たちが名も知らぬ仲間(「YY」と呼ばれる少女)を自殺させまいと奮闘するさまを描いた物語。先の見えない抵抗が若者の精神状態に及ぼす深刻な影響を捉えた作品だ。

報道によれば、当時は若者の自殺が急増していた。だからメッセージアプリ「テレグラム」で、ボランティアが自殺未遂に関する情報に目を光らせ、自殺を防ぐ上で重要な情報を提供していた。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

北朝鮮の金与正氏、日米韓の軍事訓練けん制 対抗措置

ワールド

ネパール、暫定首相にカルキ元最高裁長官 来年3月総

ワールド

ルイジアナ州に州兵1000人派遣か、国防総省が計画

ワールド

中国軍、南シナ海巡りフィリピンけん制 日米比が合同
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で最も「火山が多い国」はどこ?
  • 9
    村上春樹は「どの作品」から読むのが正解? 最初の1…
  • 10
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 8
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中