最新記事

中ロ関係

ロシア支援めぐり分裂する「中国」上層部...ただ、どう転んでも習近平には得

Military Aid from China?

2022年3月24日(木)18時17分
ジェームズ・パーマー(フォーリン・ポリシー誌副編集長)
中国全人代

中国の軍人はロシアと仲がいい(写真は3月初めの全人代で) KEVIN FRAYER/GETTY IMAGES

<ウクライナ情勢をめぐって必ずしもロシアへの軍事支援に前向きではない事情は、習近平政権下でうごめく「3つの勢力」の抗争ゆえ>

米政府の情報によれば、ロシアは中国に対してひそかに軍事支援を要請しており、それにはドローンや前線の兵士向けの食料提供も含まれ、中国側は前向きに検討しているという。アメリカの国家安全保障担当大統領補佐官ジェイク・サリバンも、3月14日に中国共産党の政治局員(外交担当) 楊潔篪(ヤン・チエチー)との7時間にわたる会談で、その可能性に強い懸念を表明している。

果たして中国は、ウクライナに軍事侵攻したロシアを本当に支援するだろうか。現時点では、その可能性は低い。なにしろ中国は国内における新型コロナウイルスの感染拡大阻止と、経済の再建という重い課題を2つも抱えている。さらなる難題を抱え込む余力があるとは考えにくい。

それに、国際社会との関係悪化を覚悟の上でウクライナ侵攻に加担しても、中国が得られるのはロシアとの絆の強化だけだ。そもそも中国は、EUとの関係悪化を望んでいない。いずれ台湾の帰属をめぐる紛争が起きるのは必至だから、その前にEUとアメリカを分断しておきたい。それが中国の本音だ。

しかも今は、ロシアの同盟国でさえ腰が引けている。年初の反政府デモをロシアの支援で鎮圧したカザフスタン政府も、今は動かない。ロシアべったりのベラルーシでさえ、ウクライナに自軍を送り出そうとしない。そんなところに中国が出て行くのは、どう見てもおかしい。

最後に笑うのは中国か

中国がロシア支援に前向きだという説は、アメリカ側が故意に誇張している可能性が高い。さもなければアメリカ側が、中国の真意を読み間違っているのか。

いずれにせよ、中国がロシアに停戦を促す可能性も、欧米諸国の科した経済制裁に同調する可能性も低い。中国には、仲良しのロシアを見捨てて欧米の肩を持つ気はさらさらない。外圧で外交や経済の政策を曲げることもない。

ただし、中国側も一枚岩ではない。例えば中国の駐米大使・秦剛(チン・カン)は米紙ワシントン・ポストへの寄稿で、ウクライナ問題について中国は中立だと強調した。しかし、これはあくまでも外向きの発言。中国の国内では国営メディアが、ロシアのウクライナ侵攻を正当化するようなニュースを垂れ流している。

どうやら、背景には3つの異なる政治的な勢力があるらしい。1つは、この事態を自国にとってのリスクとみて介入を避けたい主流派の外交官たち。その次は、アメリカにけんかを売ることで出世してきた官僚やメディアの経営者たち。そして3つ目が人民解放軍だ。筆者の知る限り、中国の軍部はロシアとの合同軍事演習などを通じて、すっかりロシア側の世界観を擦り込まれている。

これらの人々に、いま君臨しているのが国家主席の習近平(シー・チンピン)だ。独裁者ゆえ、常に合理的な判断を下すとは限らない。だが習なら、少なくとも表向きは中立の立場を維持すると、筆者は信じたい(もちろん裏では、第三国を経由して軍事物資の支援をするだろうが)。

いずれにせよ、これで中国はロシアに対して貸しができる、と言ったのはロシア人の政治学者ワシリー・カシン。ウクライナがどうなろうと、中国は勝ち組なのだ。

From Foreign Policy Magazine

ニューズウィーク日本版 トランプvsイラン
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月8日号(7月1日発売)は「トランプvsイラン」特集。「平和主義者」の大統領がなぜ? イラン核施設への攻撃で中東と世界はこう変わる

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

テスラ、6月の英販売台数は前年比12%増=調査

ワールド

豪家計支出、5月は前月比+0.9% 消費回復

ワールド

常に必要な連絡体制を保持し協議進める=参院選中の日

ワールド

中国、太平洋島しょ地域で基地建設望まず 在フィジー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索…
  • 7
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 8
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 9
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 10
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギ…
  • 5
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 6
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 10
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 7
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 10
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中