最新記事

ウクライナ情勢

非核戦争はいつ核戦争に変わるのか──そのときプーチンは平然と核のボタンを押す

Nuclear Fears Intensify As Ukraine War Builds. What Is Putin's Threshold?

2022年3月8日(火)19時50分
フレッド・グタール(本誌サイエンス担当)

ロシアの核部隊が演習で発射した新型ICBM「ヤーズ』(2月19 日に露国防省が動画をリリース、場所は不明) Russian Defence Ministry/REUTERS

<冷戦スタイルの核の恐怖が再び表舞台に躍り出た。核超大国(アメリカ、中国、ロシア)同士の睨み合い。その舞台となるのは、ウクライナだけではないだろう>

ウクライナにおける戦争が始まって数日の間は、ロシア軍の戦車がガス欠になったとか、兵士たちが食糧不足にあえいでいるというのは「明るい」ニュースだった。だがこのようなロシア軍の窮状や、ウラジーミル・プーチン大統領の国内外における立場の悪化を背景に、ロシアが核兵器を使う可能性が高まっているかも知れないとの声が軍事専門家から上がっている。

ロシア軍は民間の標的に対する激しい無差別攻撃によってウクライナ軍を短期間で制圧するはずが失敗、戦線を拡大させている。もしロシアの軍事作戦が再び頓挫すれば、「プーチンに残された頼みの綱は核兵器」という事態にならないとも限らない。

「もしロシア軍の作戦が軍事的大失敗の様相を呈し始めたら、核兵器使用へと戦争がエスカレートする可能性も出てくる」と、マサチューセッツ工科大学のバリー・ポーゼン教授(政治学)は言う。

一方、本誌が話を聞いた軍事専門家らに言わせれば、核戦争に発展する可能性は現時点では低い。プーチンはロシア軍の核部隊が「特別戦闘態勢」に入ったと発表し、「われわれに干渉しようとする者は誰であれ」核攻撃の標的になりうると示唆したが、これは激しい言葉遣いでNATOが戦場に軍隊や航空機を送り込むことを食い止めようとしているのだろうと専門家は言う。

不明な点が多い核使用の「力学」

もっとも安心はできない。「蓋然性という概念はこの状況で使うにはそぐわない」と、国連軍縮研究所(ジュネーブ)の上級研究員、パベル・ポドビグは言う。「今不可能に見えても実際には起こるかも知れない。この戦争は1度限りの出来事で、2度と同じことは起きない」

戦場において通常戦がどんな力学で核使用へと発展するのかはほとんど分かっていない。過去に核兵器が戦争で使われた例と言えば、第二次大戦の終わりの1945年8月、2つの原子爆弾が日本に投下された1度きりだ。

米ロ両国はそれぞれ、核弾頭を搭載した大陸間弾道ミサイル(ICBM)を何千発も保有し、互いに狙いを定めている。核兵器による交戦が紛争を拡大させ、両国間の戦いにつながるリスクに関し、信頼に足る評価は存在しない。

ただしウクライナ侵攻における「戦術核」とは、ICBMと言うより核弾頭を搭載した短距離もしくは中距離のミサイルだ。ロシアはこうしたミサイルを約2000発保有していると考えられており、その多くはウクライナ戦での利用が可能だ。

アメリカとその同盟国はこれまで、ウクライナ問題への深入りはせずロシア軍との直接対決を避けるとの姿勢を堅持してきた。だが軍事専門家は、ロシアが核兵器使用に踏み切るレベルまで軍事作戦が不利に展開するシナリオはいくつもあると考えている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルとの貿易全面停止、トルコ ガザの人道状況

ワールド

アングル:1ドルショップに光と陰、犯罪化回避へ米で

ビジネス

日本製鉄、USスチール買収予定時期を変更 米司法省

ワールド

英外相、ウクライナ訪問 「必要な限り」支援継続を確
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 10

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中