最新記事

軍事

ウクライナ侵攻の展望 「米ロ衝突」の現実味と、「新・核戦争」計画の中身

CRISIS COULD TURN NUCLEAR

2022年2月26日(土)13時33分
ウィリアム・アーキン(元米陸軍情報分析官)、マーク・アンバインダー(ジャーナリスト)
米空軍F16戦闘機

空中給油を含む「迅速機敏な戦力展開」の訓練のため、編隊飛行する米空軍のF16戦闘機 HUNTER HIRESーU.S. AIR NATIONAL GUARD

<アメリカが以前から構築してきた新しい戦争計画が、ロシアによるウクライナ侵攻で現実味を帯びる。非核兵器・核兵器の融合が、かえって「核戦争」を招く恐れも>

この原稿が世に出る頃ウクライナで戦争が始まっていても、誰も驚くまい。しかし、これが昔ながらの「局地戦」に終わると思ったら大間違いだ。米ロの緊張が極度に高まるなか、アメリカは新たな「核戦争計画」を用意している。そこに描かれるのは従来とは全く異なる戦争の姿だ。(編集部注:この記事は本誌2月22日発売号(3月1日号)「緊迫ウクライナ 米ロ危険水域」特集に掲載したものです)

この計画では、核兵器と非核兵器が初めて対等な兵器群として位置付けられ、統合されている。なお「非核兵器」には伝統的な通常兵器に加え、敵国の送電網や通信網に対するサイバー攻撃といったサイバー戦の領域も含まれる。この場合、伝統的な(核の)抑止力は弱まる。目に見えないサイバー戦を含め、攻撃のオプションが増えれば相手方の意図は読みづらくなる。単なる防衛的措置なのか、先制攻撃の前触れなのか。そこが読めなければ戦闘は拡大するだろうし、読み違えて核兵器のボタンを押す危険も高まる。

一触即発の危機があり、青天の霹靂で核ミサイルが発射され、地球が破滅する──というのは昔の話。今までは核兵器の使用が究極の選択肢だったが、新たな核戦争計画ではそれも多くの選択肢の1つとなる。新たな選択肢には、核兵器も通常兵器も「非通常兵器」も含まれ、従来型の物理的に攻撃する動的(キネティック)な攻撃も「非動的」な攻撃も含まれる。

現にアメリカのジョー・バイデン大統領は2月7日に、ロシアがウクライナに侵攻すればノルドストリーム2(ロシアからドイツに天然ガスを送るパイプラインで、ロシア経済の生命線でもある)を稼働させないと警告した。むろん、爆撃で破壊するという意味ではない。ある種の「非動的」攻撃を示唆したものだ。

必要以上の反撃を招いてしまう懸念

バイデンは詳細を明かさなかったが、とにかく「わが国にはそれが可能だ」と述べた。要するにサイバー攻撃だと、専門家はみている。

サイバー攻撃能力は、アメリカの新たな核戦争計画の柱の1つだ。バイデンは昨年3月に出した国家安全保障戦略の暫定指針で、「国家安全保障戦略における核兵器の役割を低減する措置を取る」としている。ミサイルを発射する代わりに、パイプラインの運営システムにサイバー攻撃を掛ける。そうした作戦が、核兵器の使用を頂点とする壮大な戦争計画の一環として、しっかり位置付けられているわけだ。

攻撃の選択肢が増えれば、どんな敵対勢力にも対応しやすい。そしてアメリカ大統領にとっては、核戦争回避の選択肢が増える。そういう見方もできるが、こちらの攻撃の幅が広がると相手方が混乱する可能性もある。その場合、非核兵器を使用した動きが核による先制攻撃の前触れと誤解され、回避したかった核戦争が始まってしまう恐れもある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:日米為替声明、「高市トレード」で思惑 円

ワールド

タイ次期財務相、通貨高抑制で中銀と協力 資本の動き

ビジネス

三菱自、30年度に日本販売1.5倍増へ 国内市場の

ワールド

石油需要、アジアで伸び続く=ロシア石油大手トップ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中