最新記事

月探査

NASAが月面に原子力発電所を建設へ 中国も100倍出力で追随、安全性は

2022年2月8日(火)17時33分
青葉やまと

小型の「原子力発電所」

このたび設計案の公募がはじまった月面での原子力システムは、この成果を引き継いだものだ。宇宙ポータルの『Space.com』は、いかにサイズを抑えるかが設計の鍵になるとみる。少なくとも部品の状態でロケットによる打ち上げ可能なサイズとすることが求められており、最大サイズは長さ約4メートル、直径約6メートル以下でなくてはならない。また、原子炉の総重量は6トン以下という制限がある。

このように原子炉は小型であるものの、地上にある既存の原発と同様、ウラン燃料を用いた核分裂反応をもとに電力を得るしくみだ。NASAは計画のなかで「原子炉(nuclear reactor)」との表現を用いているが、すでに複数の海外メディアが月面における「原子力発電所(nuclear power plant)」だと表現している。

昨年の計画時点で米CNBCは、「NASAと米エネルギー省は、月面および火星に原子力発電所を建設し長期的な探査計画の糧とすべく、業界から企画案を募集する」と報じた。『スペース.com』も今年11月30日、「2030年までにNASAが月面に原子力発電所を建設の意向」として取り上げている。

小型だが立派な原子力施設となれば、設計には細心の注意が求められる。こと定住者のいない月面では、万一の事故時には対応手段が限られることになる。英サン紙は、「エンジニアたちはまた、原子炉がメルトダウンに至らないよう冷却しておく方法も考えなければならない」と指摘する。月では昼夜の温度差が最大300℃近くになることから、「これは厄介な問題となる可能性がある」との見解だ。

各国が積極姿勢、安全性に疑義も

月面探査用の電源として原子力エネルギーは有望視されており、アメリカ以外では中国が興味を示している。計画は秘密裏に進められているが、関与した科学者のうち2名が原子炉のプロトタイプの設計が完成したと明かした。香港のサウスチャイナ・モーニングポスト紙が報じた。主要部品の一部はすでに製造されており、完成時の出力は1メガワットになるという。NASAが計画しているシステムの100倍に相当する。

米技術サイト『インタレスティング・エンジニアリング』はこの件を取り上げ、「中国の原子炉計画が内密に進められていることから、例えば打ち上げの失敗により放射性物質が軌道上に撒き散らされるなどの事故時などにおいて、政府の規制が行き届かないのではないかとする懸念が一部に存在する」と指摘している。

ほか、宇宙開発における原子力利用については、ロシアがメガワット級の原子炉を備えた輸送船を開発中、欧州宇宙機関も200キロワット級原子炉の地上テストを目指している。有望なエネルギー源として採用が進む反面、事故対応をどう想定するのかが課題となりそうだ。

Nasa's INSANE PLAN To Put A Nuclear Reactor On The Moon!


NASA Reveals a Plan To Colonize Moon by 2024. Would it Work?

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

午前の日経平均は反落、中東情勢緊迫化など受け利益確

ビジネス

日鉄、買収資金借り入れの悪影響を米事業拡大で相殺=

ビジネス

EXCLUSIVE-7月から超長期債1000億円減

ワールド

イラン・イスラエルの日本人退避で空自機派遣、バス移
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越しに見た「守り神」の正体
  • 2
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火...世界遺産の火山がもたらした被害は?
  • 3
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 6
    下品すぎる...法廷に現れた「胸元に視線集中」の過激…
  • 7
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 8
    【クイズ】「熱中症」は英語で何という?
  • 9
    ロシア人にとっての「最大の敵国」、意外な1位は? …
  • 10
    電光石火でイラン上空の制空権を奪取! 装備と戦略…
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越しに見た「守り神」の正体
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未…
  • 6
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 7
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 8
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 9
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 10
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 5
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 6
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 7
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中