最新記事

月探査

NASAが月面に原子力発電所を建設へ 中国も100倍出力で追随、安全性は

2022年2月8日(火)17時33分
青葉やまと

2030年までにNASAが月面に原子力発電所を建設の意向 Cosmos Lab-YouTube

<月面での探査活動に用いるため、NASAは今後10年内に小型の原子炉を月に設置する>

宇宙探査で用いられる電源のひとつに、太陽光発電がある。しかし月面においては、必ずしも最適なエネルギー源とはいえないようだ。月の夜は地球時間で14日間ほど続き、このとき発電は停止してしまう。探査活動の拡大に伴い、太陽光に頼らず常時稼働できる電源の確保が急務となっている。

そこで白羽の矢が立ったのが、原子力エネルギーだ。米エネルギー省管轄の原子力研究機関である国立アイダホ研究所(INL)は2021年11月19日、月面における原子力発電システムの設計パートナーをNASAと共同で公募するとの声明を発表した。INLは声明のなかで、NASAの月面ミッションに用いるべく、「太陽に依存しない、高耐久かつ大容量の電源」を2030年までに建設したいと述べている。

計画中のシステムは核分裂地表発電システム(FSP)と呼ばれ、一般家庭数軒分の電力に相当する10キロワットを供給する。このシステムを4つ建設することで、最低でも設置から10年間にわたり、月や火星での「強力なオペレーション」に必要な電力を賄うことができるという。

INLのプロジェクトリーダーであるセバスチャン・コルビシエロ氏は「信頼のおける高出力のシステムを月面に設けることは、有人探査における次なる必要不可欠なステップであり、その達成はすでに手の届くところにあります」と必要性を強調する。NASAは2020年代後半にまずは月面で稼働させ、続いて火星にも展開したい意向だ。

宇宙開発分野では原子力電池が実用化されているが、これは臨界反応ではなく崩壊熱を電気に変換するものであり、原子炉とは異なる。比較的新しい火星探査機「キュリオシティ」に搭載されているものでも電気出力は100〜125ワット程度と、計画中のFSPシステムのおよそ100分の1の規模だ。

キロパワー計画を継承

今回の計画は、すでに終了したキロパワー計画の後釜となるものだ。同計画のもと、NASAと米エネルギー省は2018年、真空状態下で原子炉を稼働させるテストを行なっている。

実験は地上のラボに設けられた真空チェンバーのなかで行われた。小型の炉心のなかで高濃縮ウラン燃料を反応させ、生じた熱をナトリウム製の導熱パイプを通じて取り出す。この熱によりスターリングエンジンと呼ばれる外燃機関内のガスの体積を変化させ、核分裂反応から電力を得ることに成功している。

NASA宇宙技術ミッション局のジム・ロイター副長官代理は当時、「安全、高効率かつ潤沢なエネルギーが、未来のロボット探査および有人探査への鍵となるのです」と述べ、原子炉の必要性を強調した。

キロパワー計画ではさらに、安全性の検証を目的のひとつに据えていた。原子炉の出力低下、エンジンの不具合、導熱パイプの損傷など複数のトラブルを人為的に発生させ、故障に対応できることを確認したという。主任エンジニアのマーク・ギブソン氏は、「我々はこの原子炉を非常によく理解しており、設計通り動作することがテストによって証明されました」と胸を張る。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

豪就業者数、3月は予想外の減少 失業率3.8%に上

ビジネス

米アボットの第1四半期、利益予想上回る 見通し嫌気

ビジネス

原油先物は小幅高、米のベネズエラ石油部門制裁再開見

ビジネス

独、「悲惨な」経済状況脱却には構造改革が必要=財務
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画って必要なの?

  • 3

    【画像・動画】ヨルダン王室が人類を救う? 慈悲深くも「勇ましい」空軍のサルマ王女

  • 4

    パリ五輪は、オリンピックの歴史上最悪の悲劇「1972…

  • 5

    人類史上最速の人口減少国・韓国...状況を好転させる…

  • 6

    アメリカ製ドローンはウクライナで役に立たなかった

  • 7

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 8

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 9

    対イラン報復、イスラエルに3つの選択肢──核施設攻撃…

  • 10

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...当局が撮影していた、犬の「尋常ではない」様子

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 7

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 8

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 9

    温泉じゃなく銭湯! 外国人も魅了する銭湯という日本…

  • 10

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中