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今も闇に包まれた「マルコムX」暗殺事件...専門家が語る「疑惑」と「再捜査」

Who Killed Malcom X?

2022年1月13日(木)10時27分
アイマン・イスマイル(スレート誌)

そもそも、2人が事件当時に犯行現場にいたことを示す状況証拠すらなかった。2人は現場で現行犯逮捕されたわけではなく、何日も後になってから逮捕された。事件当日に別の場所にいたというアリバイもあった。有罪の根拠とされたのは数件の目撃証言だったが、証人たちの証言内容には矛盾があった。

検察側は捜査を早く終わらせたいと考えていたようにみえる。マルコムXが離脱した教団(2人が所属していたイスラム系黒人団体の「ネーション・オブ・イスラム」)のメンバーが暗殺したという筋書きにしたかったようだ。

けれども、私に言わせれば、それだけで2人が実行犯だと決め付けるのは無理があった。当局は、事件の幕引きをするのに都合がいい人間を探していたのだろう。FBIとニューヨーク市警が2人の潔白を示す証拠を隠蔽していたことも分かっている。

――どうして『マルコムX暗殺の真相』がネットフリックスで配信されるまで、事件の再捜査が行われなかったのか。

2人の有罪を疑問視する主張は昔からあった。しかしそれは専門家やマニア、研究者の間でしか語られなかった。

その点、ネットフリックスで配信されたドキュメンタリーは、これまで唱えられてきた数々の主張を整理して、大勢の視聴者に示した。それに、問題を一刻も早く是正することの重要性を人々の心に強烈に印象付けた。

――有罪判決の取り消しにより、なんらかの形でマルコムXの歴史が変わると思うか。

今回の新しい展開により、マルコムXが体制を揺さぶる強力な力を持っていたことがますますくっきり見えてきたと言えるだろう。体制は、マルコムが殺害された後もなお、マルコムの不正や腐敗を強調することで、偉業を過小評価させてきた。

実際に何が起きたかは草の根レベルでは知られていたのに、メディアはそれを取り上げようとしなかった。人々もそうした主張を信じなかったのかもしれない。それに、言うまでもなく、警察も当時は真剣に取り合わなかった。それでも、いつかもう少し真実に近づける日が来るはずだと信じ続けた先人たちがいた。

――半世紀以上の年月がたって、歴史上の重大事件の真相に関する理解が大きく変わることは、あなたのような歴史研究者にとってどのような意味を持つのか。

歴史が全面的に確定することは決してない。私は教え子たちにこう話している。「過去の出来事は既に終わったことだ。けれども、私たちが過去を振り返るとき、私たちがその過去について知っていることは日々変わっていく。歴史は生きている」と。

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