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北朝鮮のミサイル発射は威嚇ではなく確実な実験 液体燃料アンプル開発で配備を迅速化へ

2022年1月11日(火)17時43分
北朝鮮よるミサイル発射を伝えるテレビを見る韓国市民

北朝鮮は極超音速兵器の実験と並行して、ミサイルをより迅速に配備し発射できる燃料システムの開発を推進しているとアナリストは指摘している。写真は5日、ソウルで北朝鮮よるミサイル発射を伝えるテレビを見る市民ら(2021年 ロイター/Kim Hong-Ji)

北朝鮮は極超音速兵器の実験と並行して、ミサイルをより迅速に配備し発射できる燃料システムの開発を推進しているとアナリストは指摘している。

北朝鮮の大型弾道ミサイルはほとんどが液体燃料を使用している。固体燃料の開発も進めてきたが、現時点では大半がより小型で短距離のミサイル用だ。

最近の実験は北朝鮮が第3の選択肢として「ミサイル燃料アンプル」システムを追求していることを示している。これは液体推進剤と酸化剤のタンクをミサイルの機体内に密閉し、工場で燃料を補給してすぐに使用できるようにするものだ。

米カーネギー国際平和財団の上級研究員アンキット・パンダ氏は、「これにより現場での燃料補給が不要になり、北朝鮮の液体推進ミサイルの反応が速くなる可能性がある」と指摘する。

北朝鮮が固定燃料に完全に移行するまでかなりの時間がかかると述べ「この方法は暫定的に有効な手段となる」との見方を示した。

北朝鮮は9月の極超音速ミサイル発射時に初めて燃料アンプルを使用したと明らかにした。国営メディアによると、高官が「全てのミサイル燃料システムをアンプル化する」意義について言及した。

米国の北朝鮮分析サイト「38ノース」によると、これは北朝鮮が「全てを固体燃料に移行するのではなく、液体推進弾道ミサイルを長期的に維持し改良していく意向」であることを示唆している。

爆弾を抱えた状態

欧州を拠点とするミサイル専門家のマーカス・シラー氏は、北朝鮮が追求している燃料貯蔵システムは不安定だとし、軍事的有用性を疑問視している。

北朝鮮のロケットエンジンは酸化剤として四酸化窒素(NTO)、燃料として非対称ジメチルヒドラジン(UDMH)を使用している。どちらも毒性が強く、また接触すると激しく反応する。この爆発がロケットの動力となるが、これらの化学物質は衝撃や温度に非常に弱い。

シラー氏によると、障害物にぶつかったり攻撃を受けたりしてミサイルの燃料タンクが破裂した瞬間に「全てが真っ赤な分厚い雲となって消えていく」という。「まるで爆弾を抱えて運転しているようなものだ」と語る。

NTOはマイナス11度で凍り、21度で沸騰し始める。冬の夜に発射命令を待っているとNTOが凍り、ミサイルは発射時に爆発しかねない。一方、夏の高温時には沸騰する恐れがあるためリスクが大きいという。

北朝鮮は先週「冬の天候下での燃料アンプルシステムの信頼性」を確認したと説明した。燃料システムの安定性を確実にしようとしているとみられる。

(Josh Smith 記者)

[ロイター]


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