最新記事

エネルギー

日本政府「原発45基分を洋上発電」 意欲的な政策を外資が虎視眈々と狙うワケ

2021年12月6日(月)13時35分
前田雄大(EnergyShift発行人兼統括編集長) *PRESIDENT Onlineからの転載

イギリスの洋上風力産業は成長を続け、ようやく形になった。脱炭素時代の到来というまたとないチャンスとなった。次なる一手は機動的な国際展開ということになる。聞こえはいいが端的に言えば、産業競争力を背景とした経済的侵略だ。

そこで洋上発電を国家プロジェクトで進める日本は、絶好の狩り場として浮上する。

同じ島国なのに...なぜ日本は風力発電に乗り遅れたのか

日本は長らく再エネを軽視してきた。先述の通り、電源構成は火力発電が全体の7割超を占め、再エネ比率はわずか18%に過ぎない(2019年度)。水力を除けば1割程度だ。日本のエネルギー政策は福島第一原発事故まで「原発脳」であった点も大きいだろう。

その点、イギリスは北海油田や石炭資源がありながら、有限性に着目し、早い段階で再エネ(特に洋上風力)に目をつけ、脱炭素という追い風が吹くまで自国産業を育成し続けた。同じ島国でありながら日本が風力発電に乗り遅れ、差をつけられた理由はここにある。

日本はようやく「再生可能エネルギー主力電源化の切り札」として風力発電、特に洋上風力に着目し始めた。だが、このままでは王者であるイギリスの狩り場に成り下がる恐れがある。理由を3つに整理する。

撤退を続けた国内企業

一つ目は、そもそも対抗できる国内メーカーがおらず、洋上風力の導入には外資の知見を頼らざるを得ない点だ。世界では、デンマークのオーステッド、ドイツのRWE、スウェーデンのバッテンフォールなどが洋上風力発電事業者の上位を占めており、そこに日本勢の名前はない。

日本では、少し前には三菱重工、日本製鋼所、日立製作所の三つのメーカーが風力発電機の国内製造を行っていた。しかし、市場の成長が遅れたこともあって順次撤退し、2019年春に日立製作所が製造を終了したことで国産風車メーカーは完全に無くなった。発電に必要不可欠な風車に関しても日本勢は完全撤退している。

洋上風力について日本勢の弱さを象徴するエピソードもある。福島県沖でオールジャパンの体制で組まれた福島洋上風力コンソーシアムが2013年以降、洋上風力の実証実験を行ってきた。

しかしコストが高い上に、不具合続きなどの影響で稼働率は低迷。採算を見込めず撤去した。約600億円もの巨費をつぎ込みながら、「データを収集する目的は果たせた」という政府の弁ではあまりに寂しいだろう。

福島洋上風力コンソーシアムのウェブサイト

画像=福島洋上風力コンソーシアムのウェブサイトより

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国国防相、「弱肉強食」による分断回避へ世界的な結

ビジネス

ブラックストーンとTPG、診断機器ホロジック買収に

ビジネス

パナソニック、アノードフリー技術で高容量EV電池の

ワールド

タイ、通貨バーツ高で輸出・観光に逆風の恐れ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中