最新記事

エネルギー

日本政府「原発45基分を洋上発電」 意欲的な政策を外資が虎視眈々と狙うワケ

2021年12月6日(月)13時35分
前田雄大(EnergyShift発行人兼統括編集長) *PRESIDENT Onlineからの転載

運転の知見もなければ基幹部品の風車も海外製品に頼らなくてはならない、というのが今の日本の実態だ。海外勢が圧倒的な競争優位性を持っている。日本で洋上風力市場が生まれ、急速な拡大が見込まれながら日本に有力なプレーヤーがいないのだ。

ちなみに太陽光の分野でも同じ現象が起きている。これから脱炭素目標に向かって太陽光も導入・拡大が目される中、日本の太陽光パネルメーカーは続々生産撤退を発表している寂しい状況にある。

外資参入を止められない仕組み

二つ目に、現状では洋上風力について外資参入を規制する制度設計になっていない点だ。

国内の洋上風力は長崎県五島市沖合や千葉県銚子市沖で商用運転されている事例を除き導入実績はなく、海外の成功事例を輸入する以外に根付かせる方法がない。日本の洋上風力は、外資を規制する手段すら講じられない段階にあると言っていい。

これが、政府が「切り札」と持ち上げる洋上風力の状況なのだ。政府もこの点は割り切っており、「これまでの国内の風車メーカー撤退等の経緯を総括し、海外企業との連携や国内外の投資を呼び込むような」政策が必要であると認めている。

この結末は、先行した太陽光発電を見れば明らかだ。日本の太陽光発電市場に多くの外資の参入を許すことになった。当時の太陽光より海外と力量差がある洋上風力は、規制なくば、外資の参入は太陽光との比では済まないだろう。

実際、すでに外資は日本市場に入ってきている。先ほど洋上風力の世界上位企業として挙げたオーステッドは日本の洋上風力開発に参画済みだ。RWEも日本法人を設立し、関西電力との提携を発表するなど着々と準備を進めている。また、首脳レベルで圧力をかけてきたイギリスは、この11月に電力大手SSEが日本の洋上風力会社の株式を8割取得し、日本市場に進出する姿勢を鮮明に打ち出している。

日本は非常に「おいしい市場」

三つ目の理由は、太陽光導入時と同様に、洋上風力でも政府が電力を一定額で買い取る制度(固定価格買取制度)の適用が想定されている点だ。

買取価格は1kWhあたり20円台後半以上になる見込みだ。太陽光の11円と比較すればどれだけインセンティブが設けられているかが分かる。確実に事業者が儲かる価格設定にしないと参入が期待できないからだ。

さらに日本という信頼できる国の政府保証が付く。20年という長期保証のビジネスモデルであり、外資からすればこれ以上予見性をもって稼げる場はない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾新総統が就任、威嚇中止要求 中国「危険なシグナ

ワールド

ベトナム国会、マン副議長を新議長に選出 新国家主席

ワールド

イラン大統領代行にモフベル第1副大統領、5日間の服

ビジネス

四半世紀の緩和、大企業・製造業は為替影響の回答目立
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『悪は存在しない』のあの20分間

  • 4

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 7

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 8

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 9

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 10

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 9

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 10

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中