最新記事

アラブ世界

日本人には分かりにくい「アラブ」「中東」「イスラム」の違いって?

2021年11月25日(木)19時25分
アルモーメン・アブドーラ(東海大学教授)

つまり、これら3つの名称と互いへの関係性をイメージ的に捉えてみると、次のような図で包摂的関係をなしていると言えよう。

arab_2.jpg

図:アラブと中東とイスラム世界を結びつける存在「イスラム教」

アラブとは何か、また、アラブ人を統一または分裂させているものは何か。私は迷わずに次のように答える。「アラビア語を使っている地域はアラブを構成する地域であり、そこに住む人々はアラブ人である」。

アラブの範囲はかなり大きいものだということが分かるだろう。アラブ人は一つの国に住んでいるわけではなく、さまざまな国に分かれて暮らしているのだ。

現在、アラビア語が公用語の国はサウジアラビア、イラク、ヨルダン、シリア、エジプトなどペルシャ湾から北アフリカの21カ国に及ぶ(これらの国々をアラブ諸国という)。正確な統計はないのだが、アラビア語を母語とする人々の数はおよそ3億5000万人にのぼり、人口増加に伴い今も増える一方である。

さらに、先ほど説明したように「アラビア語を使っている地域はアラブを構成する」とすれば、アラブの範囲は欧米諸国やアジア、南米、ロシアなどに存在するアラブ・コミュニティにも広がっているといえる。特にアラブ人移民が多いフランスやイギリスなどのヨーロッパ諸国々で、アラビア語が街中で通じる場面は意外と多いのである。

アラブ人に特定の肌の色はなく、黒いアラブ人もいれば、白いアラブ人もいる。また、同じ一つの宗教に帰依しているわけではない。イスラム教徒もいればキリスト教徒も存在する。

arab_3.jpg

多くの日本人は、アラブ=イスラムだと思っているようだが、そうではない。アラブが単なるアラブ諸国にとどまらないように、イスラムもイスラム教を国教とするイスラム諸国にとどまらない。

中東はどこを指しているのか。そもそも、中東と言う言葉自体は、中東と呼ばれる地域に住んでいる人々が付けたものではない。

複雑な歴史的関係は置いておいて、政治的意味と地理的意味を同時に持つ「中東」という言葉を使うのはもっぱら欧米諸国だ。

そもそもはイギリスが作り出した概念で、19世紀にヨーロッパ列強の植民地獲得競争が盛んとなっていたころに誕生した。イギリスはオスマン帝国が支配していた地域を、自国から見て「近い東側のエリア」、つまり「近東(near east)」と呼んだ。

その後、ペルシャ湾岸地域の戦略的重要性が高まり、ペルシャ湾(アラブ湾ともいう)からエジプトあたりまでを、オスマン帝国よりも東側ということから、「中東」と呼ぶようになったのである(日本はその東の果てに位置するので「極東」と呼ばれる)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、中国に関税交渉を打診 国営メディア報道

ワールド

英4月製造業PMI改定値は45.4、米関税懸念で輸

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる

ワールド

韓国最高裁、李在明氏の無罪判決破棄 大統領選出馬資
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中