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女子テニス選手と張高麗元副総理との真相──習近平にとって深刻な理由

2021年11月23日(火)15時55分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

一方、2012年の秋には第18回党大会が開催されることになっており、胡錦涛政権から次の政権へと移ることになっていた。

中共中央総書記&中央軍事委員会主席には、習近平がなるだろうという予測のもと、2012年3月に『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』という本を出版したばかりで、その年の秋に誕生する新しい「チャイナ・ナイン」には習近平と李克強以外に誰が入るだろうかと、その予測に没頭していた時期でもある。その頃はまだ次期政権も常務委員は「9人」になるだろうと考えていた。

教え子が天津から北京国際飯店まで私を送り届ける車中でのことだ。

「誰が次の政治局常務委員に入ると思う?」

私はふと、教え子の青年にまで聞いていた。不動産開発産業に携わっていると、自ずと地方人民政府との接触が多くなる。それは彼が私に紹介した天津市政府高官のレベルからもうかがえる。

自問自答しながら、「張高麗は確かに天津の経済を成長させたけど、どうだろうか?」と言うと、教え子は突然高速の運転をしている手を緊張させて、路肩に車を寄せた。

「教授、あのですね...、これは他の人にはなかなか言えない話ですが...」と、車の中には私と彼しかいないのに、声を潜(ひそ)めて話し始めた。

「あのう、実はですね...、張高麗には良くない噂がありまして...」

「良くない噂?」

「はい、とんでもない話なのですが、張高麗の奥さんがですね、すごく不満をもらしているらしいのです」

「奥さんが? ということは...」

「はい、女でしてね...、何でも若い女に手を出したと言っているようなんですよ...」

「え――っ!」

「しい――っ。これは大声で言ってはならない話なんです」

彼の深刻な表情を見て、私はそれ以上聞けなかった。それでも最後に一つだけ聞いた。

「どうして知ったの?」

「スポーツ...仲間...からです」

彼はゴルフとテニスをやっている。ゴルフ仲間かテニス仲間なのだろう。そこには天津市政府の「お得意さん」もいる。

「あのう、教授、この話は...」

「はいはい、わかりましたよ。口外しないようにしますよ」

そのときは、そう約束したのだった。

そして生涯、口外しないようにしようと思っていた。

しかし、こんな事件が明るみに出て、おまけに「アンチ習近平派による権力闘争だ」などという解説を大手メディアが「専門家」に言わせるようでは、このまま黙っているのは罪悪だという気持ちにさえなったのである。

習近平はなぜ張高麗をチャイナ・セブンに選んだのか?

2012年の北戴河の会議では、張高麗の名前は出ていなかった。しかし2012年11月15日、第18回党大会一中全会後に舞台に並んだ政治局常務委員(7人になったので、改めてチャイナ・セブンと命名)の中には、張高麗の姿があった。

のちに元中国政府高官に聞いたところによれば、第18回党大会開催寸前になって、胡錦涛元総書記の意思に反して、汪洋などの名前は消され、張高麗などの名前が強く押し出されたのだという。

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