最新記事

中国

女子テニス選手と張高麗元副総理との真相──習近平にとって深刻な理由

2021年11月23日(火)15時55分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

というのは、張高麗の地盤は広東省深セン市にあり、習近平の父・習仲勲が鄧小平によって二度目の失脚をさせられたあと、深センに住む習仲勲を何度も訪ねては勇気づけたらしい。

拙著『習仲勲 父を破滅させた鄧小平への復讐』に書いたように、今となれば、習仲勲に敬意を表した張高麗を、なぜあそこまで習近平が引き立てたのかという心理を推し量れるものの、しかし、それだけに習近平の任命責任は重い。

私の教え子も知っていた事実を、習近平は知らなかったのだろうか。

だとすれば、身体検査が甘すぎる。

だからこそ習近平は、どんなことがあっても、このような事実はなかったものにしなければならないのだろう。

IOCのバッハ会長まで利用した習近平

11月19日、国連人権高等弁務官事務所の報道官は記者会見で、彭帥に関して「彼女の居場所や、元気であることをはっきりさせることが重要だ」と述べ、またホワイトハウスの報道官も所在確認や安全確保などを訴えた。同時に国際世論は「さもなくば、北京冬季五輪開催の是非も考えなければならない」という方向に動いていった。

そこで習近平はIOCのバッハ会長に頼み込んで、彭帥とのオンライン通話を演出してもらったものと思う。

WHOのテドロス事務局長との仲でもお馴染みのように、習近平は多くの国際組織の長に中国寄りの人物が就任するよう、ありとあらゆる手法を用いてきた。基本はチャイナ・マネーを利用してのことだが、一帯一路参加国など、発展途上国の多くは中国に多額の債務を抱えているため、それを「減免してあげるかもしれないよ」とちらつかせれば、ほとんどの国は屈服するだろう。どんなに小さく貧困な国でも、国際組織における議決の時には「一国一票」である。

かくしてバッハも習近平政権になったあとの2013年9月にIOC会長に就任しているし、今年3月の再選時にも他の立候補者が出ないほど中国は水面下で動き、バッハには大きな貸しをしている。習近平の思う方向に動かないはずがない。

習近平の期待に応えて、バッハはIOC運動委員会主席(フィンランド)等とともに彭帥とのオンライン通話を実施し、世界に向けて「彭帥が無事であること」を公開した。彭帥は「北京の自宅で安全、元気に暮らしているが、今はプライバシーを尊重してほしい」と話しているとIOCは発表している。

彭帥の現状

思うに中国当局は、彭帥と張高麗との関係が事実であることを知っているため、彭帥に対しては破格の厚遇をしてもてなし、非常に豪華な場所に「ご宿泊いただいて」、監視だけは強めているものと推測される。張高麗を「連行して」、彭帥の前で土下座させ謝罪させるくらいのことはやっているだろう。

そして彭帥には破格の好条件を提案して、「どうか黙ってくれ、どうかなかったものとして諦めてくれ」と頼み込んでいるに違いない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

三菱自社長、ネクスペリア問題の影響「11月半ば過ぎ

ワールド

EUが排出量削減目標で合意、COP30で提示 クレ

ビジネス

三村財務官、AI主導の株高に懸念表明

ビジネス

仏サービスPMI、10月は48.0 14カ月連続の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    高市首相に注がれる冷たい視線...昔ながらのタカ派で…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中