最新記事

ベラルーシ

行く手を塞がれ、戻ると殴られる──ルカシェンコの「移民兵器」にされたクルド人は動物以下の扱い

Migrants in Belarus Allegedly Beaten by Military Guards, Won't Let Them Return Home

2021年11月16日(火)20時21分
アレックス・ルーハンデ
ルカシェンコ

移民を自国に誘い込み、EUに送り込んだとされるベラルーシのルカシェンコ大統領 Nikolai Petrov/BelTA/Handout via REUTERS

<甘いウソを信じてEUの近くまでやってきたが、目的地のはずのポーランドでは軍隊に入国を阻まれ、ベラルーシに戻ろうとすると警棒で殴打される。EUもベラルーシを非難し制裁を科すだけだ>

ポーランドとベラルーシの国境にまたがる「ビャウォヴィエジャの森」で立ち往生している移民たちが、ベラルーシの国境警備隊に暴力を振るわれたと訴えている。故郷に戻ろうとする移民たちの再入国を認めず、再入国を試みる者を警棒で殴打しているというのだ。

アルジャジーラの報道によれば、移民たちは、ポーランドが幅約3.2キロに満たない排除区域に「閉じ込められている」。移民たちは、ポーランドへの入国を試みたあと、ポーランド当局によってこの区域に連れ戻された。そこでベラルーシ側へ戻ろうと試みたところ、ベラルーシの当局者に殴られて妨害されたという。

「彼らはわれわれを殴った。友人は鼻を折られた。金もパスポートも、何もかもを奪った」。ユセフとだけ名乗ったシリア系移民は、アルジャジーラにそう話した。「私はシリアへ行きたいだけだ。空港へ行って、故郷へ帰りたい」

安全にEUに行けると言われて

アルジャジーラの報道によれば、ユセフを含む多数の移民や難民は、誤った情報を与えられ、ベラルーシからポーランドへ抜ければ、安全にEUに入れると信じ込まされているという。

EU、NATO、米国は、この危機はベラルーシの独裁者アレクサンドル・ルカシェンコ大統領が仕組んだものだと糾弾している。昨年の選挙で不正をして大統領の座に居座ったとみられるルカシェンコは、これに抗議する大規模デモを弾圧。それに対してEUが制裁を科したことへの報復として、多くが少数民族クルド人とみられる移民や難民をEU加盟国のポーランドに送り込んでいる、というのだと、アルジャジーラの記事は伝えている。

ベラルーシ政府は否定しているものの、ポーランド側は、ルカシェンコがロシアのウラジーミル・プーチン大統領と共謀して、この危機をつくりだしたと主張している。「ルカシェンコの攻撃の黒幕はモスクワにいる。黒幕はプーチン大統領だ」とポーランドのマテウシュ・モラウィエツキ首相は述べたとBBCは報じた。彼は、これは移民を使った「ハイブリッド攻撃」だとも言っている。

BBCによれば、欧州の当局者は、ベラルーシは自国に移民を呼び入れたのち、安全保障上の危機をつくりだす目的で、ポーランドとの国境へ送り込んだと主張している。

EUはこの危機に対し、ベラルーシにさらなる制裁を科した。バイデン政権も制裁を実行すると発表した。ジョー・バイデン米大統領は、この危機に最前線で取り組む旧東欧諸国の首脳たちと連絡を取り合っていると語った。

この間、移民たちは排除区域で立ち往生させられたままだ。生活必需品にこと欠く人もいる。ユセフによると、人々は川の水を飲み、木の実を見つけて食べている。ここの移民を治療した医師はアルジャジーラに対し、腎臓の問題、脱水症、低体温症、濡れた靴や服で歩いたことによる皮膚疾患を抱える人たちを診たと話した。

アルジャジーラの報道によれば、比較的裕福な人は、密入国斡旋業者に金を払い、排除区域から逃れている。最も貧しい人々が、西をポーランド軍に、東のベラルーシ軍に塞がれて身動きできずにいる。

「われわれが生きようが死のうが、彼らは気にしない」と、ユセフはアルジャジーラに語った。「彼らには同情の念などない」
(翻訳:ガリレオ)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されずに「信頼できない人」を見抜く方法
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中