最新記事

岸田政権

外相時代は申し分のない結果を出した岸田氏だが、首相としては心配事がある

WHAT WILL FUMIO KISHIDA DO?

2021年11月9日(火)20時02分
浜田宏一(元内閣官房参与、米エール大学名誉教授)
岸田文雄首相

岸田首相は衆院選の成果を今後どう利用するのか RODRIGO REYES MARINーPOOLーREUTERS

<総選挙で「絶対安定多数」を確保して足場は盤石な岸田首相だが、具体的な経済政策などについて懸念する声も上がっている>

岸田文雄氏が日本の第100代首相に就任して1カ月後、もう1つ彼を祝うべき出来事が起きた。先の衆院選で、岸田首相の率いる連立与党が余裕の勝利を収めたのだ。自民党単独でも、常任委員会の委員長ポストを独占した上で、委員会で過半数の委員を確保できる「絶対安定多数」の261議席を獲得した。

今後の注目は、岸田氏がこの選挙結果をどう利用するのか、そして彼が首相として国を率いることが日本にとってどのような意味を持つかだ。

私は安倍政権で内閣官房参与を務めていたから、政府会合で岸田氏とは顔を合わせていた。彼はいつも誠実な態度と笑顔で接してくれた。首相を務めるにあたり、社会的・政治的な適性がある証拠だ。

岸田首相は、自民党内の政策グループである宏池会の会長を務める。宏池会は外交政策では比較的穏健な立場を取り、経済に重点を置いている。初代会長の池田勇人は「所得倍増計画」の名の下に、GDPを10年以内に2倍にすると宣言。この目標を2年前倒しで達成した。

岸田首相も同様に経済を重視し、外交政策では穏健な立場を取るだろう。彼は安倍政権で2012~17年に外相を務め(連続在任では戦後最長)、韓国政府との間で元慰安婦を支援する10億円の基金設立を含む和解合意を達成した。韓国政府は自国の裁判所の判決を理由にこの合意を事実上破棄したが、それは岸田氏の責任ではない。

戦争の傷を癒やすための岸田氏の努力は、そこにとどまらなかった。16年5月にはオバマ米大統領(当時)を、自身の地元であり原爆被災地である広島に招いた。同じ16年の12月に、当時の安倍首相の真珠湾訪問を実現させたのも外相時代の岸田氏だった。

さらに岸田氏は誠実かつ冷静な姿勢によって、付き合いにくい中国やロシアとも良好な関係を維持した。もっと長く外相にとどまっていれば、対立する国々の仲介をしたり、世界各地の紛争の解決を進める上で中心的役割を果たしていた可能性も十分にあった。

経済政策はいまだ明確でない

しかし日本国内には、岸田氏の政策について懸念の声もある。1つ目は、経済政策がいまだに明確ではないことだ。

彼は先日、アベノミクスから距離を置き、アベノミクスはGDPや企業収益、雇用などの面で「明らかに成果を上げた」ものの、日本に必要な成長を生み出せなかったと指摘。今後は「より広範な人々の所得を向上させて消費を誘発」することで「経済の好循環」を促進させることを目指すと述べた。だがどの政府にとっても言うは易し、行うは難し。岸田氏はそれをどう実現させるか、具体的に示していない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、ハマスから人質遺体1体の返還受ける ガ

ワールド

米財務長官、AI半導体「ブラックウェル」対中販売に

ビジネス

米ヤム・ブランズ、ピザハットの売却検討 競争激化で

ワールド

EU、中国と希土類供給巡り協議 一般輸出許可の可能
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 6
    高市首相に注がれる冷たい視線...昔ながらのタカ派で…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    【HTV-X】7つのキーワードで知る、日本製新型宇宙ス…
  • 10
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中