最新記事

脱炭素

欧米の偽善、国連会議で振りかざす「緑の植民地主義」を糾弾する

Colonialism in Green

2021年11月8日(月)17時15分
ビジャヤ・ラマチャンドラン(米ブレークスルー研究所)

211116P32_COP_03.jpg

ケニアは首都ナイロビでも電力供給網の整備が遅れている THOMAS MUKOYA-REUTERS

ノルウェーは先進国中で最も化石燃料への依存度が高い国だ。原油と天然ガスが輸出の41%、GDPの14%、政府歳入の14%、雇用の6~7%を占めている。天然ガスの埋蔵量は欧州最大級で、世界第3位の輸出国でもある。

そんな国が、アフリカ諸国にこう宣告している。私たちは豊かな暮らしを手放さないが、諸君には開発を諦めてもらう。その代わり二酸化炭素を排出しないなら、ささやかながら支援はしよう、と。

弱者がさらに弱い立場に

こうした偽善は他の国も同じだ。アメリカ政府は温暖化対策で高い目標を掲げてみせたが、産油国に対しては増産を求め、アメリカ人の需要を満たそうとしている。

ドイツ政府もそうだ。野心的な排出削減目標を掲げる一方で、国内産業の脱石炭には20年近い猶予を与えている。

気候変動対策の名の下で、貧しい国々は開発を制限されようとしている。

だが開発を進めなければ、世界の貧困国は異常気象による水害や干ばつなど、気候変動の深刻な影響に対する抵抗力を高められない。エアコンもかんがい施設もなしでは、気候変動の脅威に対抗できない。

サハラ以南のアフリカ48カ国には10億人以上が暮らしているが、その温室効果ガス排出量は世界全体の累積排出量の1%に満たない。仮にこれら諸国が天然ガスだけで発電量を3倍に増やしたとしても、世界全体の排出量は1%程度しか増えない。

一方、アフリカの10億人が使う電力の増産を妨げるならば、彼らは貧しいままで、温暖化の影響に対して弱い立場に追い込まれる。現在の温暖化を招いた責任は、圧倒的に先進諸国にあるのだが。

先進諸国は口をそろえて、公平で持続可能な開発の実現に努力すると約束している。そうであれば、先進諸国は貧しい国々の開発を支援し、クリーンな技術とインフラに大胆に投資する必要がある。

貧しい国が貧困から脱することができるように、少なくとも今後20年間は、天然ガス事業への資金提供を続けるべきだ。

排出削減を語るのはいいが、社会正義を見失ってはいけない。南の貧困国が生活水準を高め、災害への抵抗力を高めるためにエネルギー資源を使うこと。それが実現できなければ、どんな高邁な理想もむなしい。

ノルウェーを含む先進諸国は排出削減の目標について、国内では厳しい措置を取らなくとも達成可能としている。国内では痛みを伴う改革を避けて政権を守り、脱化石燃料の痛みは途上国に押し付けようという算段だ。産油国のアメリカもそうだ。

この地球上で最も貧しい人々を犠牲にして温暖化対策の優等生を気取るのは、偽善を通り越して人倫に反し、あまりに不公平である。そんな「緑の植民地主義」は許されない。

From Foreign Policy Magazine

ニューズウィーク日本版 世界最高の投手
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月18日号(11月11日発売)は「世界最高の投手」特集。[保存版]日本最高の投手がMLB最高の投手に―― 全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の2025年

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

MAGA派グリーン議員、トランプ氏発言で危険にさら

ビジネス

テスラ、米生産で中国製部品の排除をサプライヤーに要

ビジネス

米政権文書、アリババが中国軍に技術協力と指摘=FT

ビジネス

エヌビディア決算にハイテク株の手掛かり求める展開に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 6
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 9
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中