最新記事

脱炭素

欧米の偽善、国連会議で振りかざす「緑の植民地主義」を糾弾する

Colonialism in Green

2021年11月8日(月)17時15分
ビジャヤ・ラマチャンドラン(米ブレークスルー研究所)

211116P32_COP_02.jpg

ノルウェーにある世界最北の液化天然ガスプラント NERIJUS ADOMAITIS-REUTERS

インドや中国では調理用のガスボンベが普及し、多くの人命が救われてきた。だから国連のSDGs(持続可能な開発目標)でも、天然ガスはクリーンなエネルギー源として認知されている。

そんなことは、もちろんノルウェーも承知している。天候に左右される風力や太陽光だけでは必要なエネルギーを確保できないから、現時点では化石燃料も使わざるを得ないと認識している。

だからこそノルウェーは、国産の石油や天然ガスの使用を制限しない。

同国のヨーナス・ガール・ストーレ首相はCOP26を前に、再生可能エネルギーへの移行過程では石油・天然ガスが極めて重要な役割を果たすと論じている。つまり、自分の国には天然ガスが必要だが、貧しい途上国が天然ガスに手を出すことは許さないという理屈だ。

これを植民地主義と呼ばずして何と言おう。環境保護の顔をした「緑の植民地主義」だ。

いや、ノルウェーだけではない。国の発展には膨大なエネルギーの持続的供給が必要なのに、北の豊かな諸国は南の貧しい国々に対し、「発展は諦めろ、貧しいままでいろ」と告げている。

その代わり気候変動対策の資金は援助するというのだが、それだと南の途上国はいつまでも北の先進国に依存することになる。

このやり方では「アフリカが貧困から脱却する道が阻まれる」。ウガンダのヨウェリ・ムセベニ大統領はそう批判している。

アフリカには、1日2ドルに満たない収入で暮らす人が4億人もいる。この人たちに必要な電力の全てを再生可能エネルギー(再エネ)だけで賄うことは、今の技術ではできない。値段も、アフリカの国々にとっては高すぎる。

潤沢な補助金を出せるのは豊かな先進国の政府だけだ。ちなみに産業革命の時代から今日までに排出された二酸化炭素の大半は、これら先進国が吐き出したものだ。

現時点で、再エネだけで電力のほとんどを賄っているのはほぼアイスランドだけ。他の国は今も化石燃料で発電をしている。肥料やセメント、鉄鋼の生産にも化石燃料は不可欠で、安くて低炭素な代替原料はまだ存在しない。

だからアフリカ大陸の発展には化石燃料が必要だ。電力源としてはもちろん、農業を近代化して自給自足状態を脱し、農村の若者が未来に希望を持てるようにするには石油と天然ガスがいる。

収穫量を増やすのに使う化学肥料の生産には天然ガスが欠かせない。道路や建物の建設にはセメントや鉄鋼が不可欠だ。食品や医薬品の冷凍保存にもトラックを動かすにも石油と液化天然ガスが必要だ。

こうした途上国の現実を直視しないのは人道に反し、共感を欠き、人倫にもとる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

タイ憲法裁、首相の職務停止命じる 失職巡る裁判中

ビジネス

仏ルノー、上期112億ドルの特損計上へ 日産株巡り

ワールド

マスク氏企業への補助金削減、DOGEが検討すべき=

ワールド

インド製造業PMI、6月は14カ月ぶり高水準 輸出
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 4
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中