最新記事

動物

アメリカの裁判所が「麻薬王のカバ」を人間と認める歴史的判断

Pablo Escobar's Columbian Hippos Are Legally People: Court Ruling

2021年10月22日(金)19時16分
サマンサ・ベルリン
カバ

カバにも裁判所で権利を主張する権利がある? USO-iStock.

<これまで動物に法人格を認めなかったアメリカの裁判所が、初めてこれを認めた。今まで救えなかった動物たちも救えるかもしれない?>

10月20日、アメリカの裁判所が歴史的な判断で、コロンビアの120頭ほどのカバたちが「法律上の人間」と認めた。

このカバたちは、コロンビアの悪名高い麻薬王パブロ・エスコバルが1980年代に輸入したカバの子孫たち。エスコパルにちなんで「コカインカバ」と呼ばれている。

エスコバルは30年以上前、自邸の動物園で飼育するため、動物たちを密輸したことに始まる。この動物園には、ゾウ、シマウマ、ラクダ、キリン、ダチョウなどの他、雄雌合わせて4頭のカバがいた。

1993年、エスコバルが警察に殺害されたとき、エスコバルの財産はすべて差し押さえられた。警察は、エスコバルの動物たちをさまざまな動物園に送ったが、カバは大きくて輸送が困難だったことから、敷地内に放っておくことにした。

そしてカバたちは、繁殖して数を増やした。現在、120頭近いカバが、川を占拠し、川べりを自由に歩き回っている。このカバたちは、住民の安全にとって脅威なだけでなく、一帯の環境にも重大な影響を及ぼしかねない。

科学者の共通の懸念は、カバたちが生態系にどのような影響を与えるかだ。カバたちはすでに在来種を追い払い、彼らの水飲み場である水路の化学特性を変化させている。

カバは裁判の当事者、つまり人間

コロンビア当局は、外来種であるこれらのカバたちを排除するための殺処分について議論を重ねた。しかし2020年7月、ルイス・ドミンゴ・ゴメス・マルドナルドという弁護士が、カバたちを殺処分から救うために訴訟を起こした。

マルドナルドは、殺処分の代わりに不妊化を提案した。コロンビア当局はこれを受け、カバたちに避妊薬を与えた。それによってこれまでに約24頭のカバが、生殖能力を失った。だが、マルドナルドはより安全とされる別の避妊薬を使用するよう求めた。

そこへ、アメリカの動物愛護団体が参戦する。米「動物保護法律基金(ALDF)」は、動物の避妊に精通するオハイオ州の野生動物専門家2人が、カバの代理人としてオハイオ地裁で証言するための法的な申請を行い、認められたのだ。

ALDFの事務局長スティーブン・ウェルズは、「今回の判断は、カバたちには米国から証言を求める法的権利があることを認めたものだ。動物たちには法的強制力を伴う権利がある。これは動物保護の歴史における重要な節目だ」と歓迎する。「動物には、虐待や搾取から自由になる権利がある。アメリカでは裁判所が動物の権利を認めないため、既存の法的保護を実行する妨げになってきた」

だがアメリカの裁判所も歴史上初めて、カバを「法(人格)として」認めた、とALDFは言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

金総書記、プーチン氏に新年メッセージ 朝ロ同盟を称

ワールド

タイとカンボジアが停戦で合意、72時間 紛争再燃に

ワールド

アングル:求人詐欺で戦場へ、ロシアの戦争に駆り出さ

ワールド

ロシアがキーウを大規模攻撃=ウクライナ当局
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 9
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 10
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中