最新記事

宇宙

銀河系の中心方向から謎の電波源が検出される

2021年10月15日(金)17時58分
松岡由希子

銀河系の中心方向からやってくる奇妙な電波信号をとらえた  Sebastian Zentilomo/University of Sydney

<豪シドニー大学らの研究チームは、銀河中心近くに位置する電波源を検出した>

豪シドニー大学らの研究チームは、銀河系の中心方向からやってくる奇妙な電波信号をとらえた。その電波は既知のどの電波源のパターンとも異なっていることから、未知の種類の恒星状天体が存在する可能性もあるという。一連の研究成果は2021年10月12日、学術雑誌「アストロフィジカルジャーナル」で発表されている。

研究チームは、西オーストラリア州マーチソン電波天文台の電波望遠鏡「アスカップ(ASKAP)」による天体観測において、2019年4月28日から2020年8月29日までに13回、銀河中心近くに位置する電波源を検出した。この天体はその座標にちなんで「ASKAP J173608.2-321635」と名付けられている。

その最も奇妙な特性は、非常に偏向性が高いという点だ。その光は一方向にのみ振動するが、時間の経過とともに方向が入れ替わる。輝度も100倍で著しく変化し、ランダムにオンとオフが切り替わる。

「新しい種類の天体かもしれない」

研究論文の共同著者でシドニー大学のタラ・マーフィー教授は「最初は目で感知できなかったが、次第に明るくなり、やがて消え、再び現れた。この挙動は非常に珍しい」と振り返る。

研究チームでは当初、この電波源はパルサー(高速で回転する超高密度の中性子星)もしくは巨大な太陽フレアを放出するタイプの星ではないかと考えていた。しかし、この電波源からの信号は、これらのタイプの天体からみられるものとは一致しなかった。研究チームは「『ASKAP J173608.2-321635』は新しい種類の天体かもしれない」と考察する。

研究チームは、豪ニューサウスウェールズ州パークス天文台の電波望遠鏡と南アフリカ共和国北ケープ州に設置された電波望遠鏡「ミーアキャット(MeerKAT)」でこの電波源を追跡観測した。

パークス天文台の電波望遠鏡による2020年4月20日と同年7月29日の観測ではこの電波源が検出されなかったが、「ミーアキャット」で2020年11月19日から2021年2月まで2週間ごとに12分間の観測を行ったところ、2月7日に電波源を検出した。しかし、その挙動は明らかに異なる。「アスカップ」での観測では数週間続いていたにもかかわらず、電波源はわずか一日で消えた。

銀河中心電波過渡現象と共通する特性

研究チームは、「ASKAP J173608.2-321635」が銀河中心電波過渡現象(GCRT)のひとつである可能性についても言及している。「ASKAP J173608.2-321635」には銀河中心電波過渡現象と共通する特性がいくつかみられた。ただし、銀河中心電波過渡現象については現時点で十分に解明されておらず、いずれにしろ「ASKAP J173608.2-321635」の正体はまだ多くの謎に包まれている。

Gravitas: 'Strange' radio waves detected from the heart of the Milky Way

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

再送仏政権崩壊の可能性、再び総選挙との声 IMF介

ビジネス

エヌビディア株、決算発表後に6%変動の見込み=オプ

ビジネス

ドイツとカナダ、重要鉱物で協力強化

ワールド

ドイツ、パレスチナ国家承認構想に参加せず=メルツ首
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 2
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 3
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」の正体...医師が回答した「人獣共通感染症」とは
  • 4
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 5
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 6
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 7
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 8
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪…
  • 9
    アメリカの農地に「中国のソーラーパネルは要らない…
  • 10
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 8
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 9
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 10
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中