最新記事

米中対立

もし中国を攻撃するなら事前連絡する...トランプ時代の密約が明らかに

Perilous Authority

2021年9月22日(水)18時21分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)
ミリー統合参謀本部議長

ミリー統合参謀本部議長は中国側と極秘に電話で連絡を取っていたとされる YURI GRIPASーREUTERS

<正気を失ったトランプが中国への核攻撃を命じたら......。敏腕ジャーナリストの新刊が暴いたワシントンの危機的内幕>

ワシントン・ポスト紙の現役スター記者ボブ・ウッドワードが新刊を発表するときは、いつもそうだ。今回の新作『Peril(危機)』も9月21日の発売に先駆けて、同紙が売りになるポイントを紹介した。

この本に書かれている2つのスクープのうち1つは、いま世間を騒がせているわりには重要ではないように見える。むしろ、もう1つのほうが非常に大きな問題をはらんでいそうだ。

ワシントン・ポスト記者のロバート・コスタが共著者としてクレジットされている同書で、話題になっているほうのスクープは、1月6日にドナルド・トランプ大統領(当時)の支持者が連邦議会議事堂を襲撃した後、米軍制服組のトップで統合参謀本部議長のマーク・ミリーが核兵器の発射手順を見直すため高官を招集していたというものだ。

ワシントン・ポストによれば、このときミリーは「核兵器の発射命令を行えるのは大統領だけだが、自分もその過程に関与しなくてはならない」と、高官らに伝えた。

ミリーは、自分が「シュレジンジャーの役」を引き受けていると語り、元国防長官の名前を挙げたという。1974年夏、酒に溺れて情緒不安定になっていたリチャード・ニクソン大統領が弾劾訴追される可能性が濃厚になると、国防長官だったジェームズ・シュレジンジャーは統合参謀本部議長のジョージ・ブラウンに、ホワイトハウスから「異例の指示」が出たら、まず自分に相談するよう伝えていた。

だが、1974年と2021年の出来事は全く別ものだ。シュレジンジャーと違ってミリーは、核兵器の発射を命じる大統領の権限を妨げようとしたわけではない。

誰からの命令も受けるなと指示

ミリーは国防総省の作戦指令室である国家軍事指揮センターの高官らに対し、自分が関与していない限り、誰からの命令も受けるなと指示した。CNNが新刊について報じたところでは、ミリーは高官らに「何を言われようと、この手続きに従ってほしい。私はこの手続きの一部だ」と語り掛け、一人一人の目を見て、承知したと口頭で確認させたという。

ドラマチックな話ではある。だが、それほど大きな問題とは思えない。

公式に定められた手順でも、大統領は核兵器の発射ボタンを押す前に統合参謀本部議長に相談するよう義務付けられている。ミリーは自分がその立場にあることをはっきりさせようとした。この記事の執筆時点で私は問題の新刊を入手していないが、抜粋記事から判断するとミリーは自分を指揮系統に加えろと求めたわけではなく、自分に必ず報告するよう念を押しただけだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、「途上国」の地位変更せず WTOの特別待遇放

ワールド

米、数カ月以内に東南アジア諸国と貿易協定締結へ=U

ワールド

ロシア、トランプ氏の「張り子の虎」発言に反論 経済

ワールド

エクソン以外もロシア復帰に関心=大統領府
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
2025年9月30日号(9/24発売)

トヨタ、楽天、総合商社、虎屋......名門経営大学院が日本企業を重視する理由

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...「文学界の異変」が起きた本当の理由
  • 2
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 3
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市場、売上を伸ばす老舗ブランドの戦略は?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    「汚い」「失礼すぎる」飛行機で昼寝から目覚めた女…
  • 6
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがた…
  • 7
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 8
    カーク暗殺をめぐる陰謀論...MAGA派の「内戦」を煽る…
  • 9
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 10
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 1
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 2
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分かった驚きの中身
  • 3
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがた…
  • 6
    【動画あり】トランプがチャールズ英国王の目の前で…
  • 7
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...…
  • 8
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 9
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 10
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 6
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中