最新記事

テロ組織

アフガニスタン、複雑怪奇なテロ組織の協力と対立の関係を紐解く

The Close Ties

2021年9月8日(水)11時58分
サジャン・ゴヘル(アジア太平洋財団ディレクター)
ハリル・ハッカニ

カブールのモスクで演説をするハリル・ハッカニ(8月20日)。アメリカに500万ドルの「懸賞金」を懸けられている VICTOR J. BLUEーTHE NEW YORK TIMES/AFLO

<誰と誰が味方? 空港自爆テロにはタリバン一派の影が? 「ISホラサン州」とタリバンの無視できない協力関係>

アフガニスタンの暗い過去を思い出させると同時に、新たな暗黒時代の到来を予感させる出来事だった。8月26日に首都カブールの空港周辺で起きた自爆テロのことだ。

8月半ばにイスラム原理主義勢力タリバンが全土掌握を宣言したのを受け、空港周辺は国外に逃れようとする市民と、それを管理しようとする米国や同盟国の関係者とでごった返していた。この爆破テロによる死傷者は米兵13人を含む数百人に上った。

そのメッセージは明白だ。母国を「捨てる」市民を殺して、彼らに追随しようとする市民の出国意欲をそぐこと。また、米兵の命を奪うことで、アメリカに米同時多発テロ(もうすぐ20周年だ)の記憶をよみがえらせ、8月31日の撤収期限を守らせることだ。

程なくして、過激派組織「イスラム国」(IS)傘下のグループ「ISホラサン州(IS-K)」が犯行声明を出した。だが、カブールの治安維持を部分的に担当するタリバンの一部門ハッカニ・ネットワークの関与も十分調べる必要がある。

ランダムな自爆テロではなく、計算して選ばれた複数のターゲットを同時に攻撃するやり口は、IS-Kに特徴的な手法だが、強力な簡易爆弾(IED)をいくつも使って大量の人を吹き飛ばすやり方は、ハッカニ・ネットワークに特徴的な手口でもある。

ハッカニ・ネットワークは、それ自体として世界各国でテロ組織に指定されている上に、国際テロ組織アルカイダとも長年にわたりつながりがある。一方、IS-Kとタリバンの間には明確な亀裂があると言われてきたが、アフガニスタンでは政治勢力や武装勢力が合従連衡を繰り返してきた。

戦闘の翌日には手を組むことも

あるとき戦闘を交えていた仇敵同士が、翌日には相互の利益のために手を組むことは日常茶飯事だ。いくつものグループが、民族や婚姻を通じて複雑につながっており、イデオロギー的な亀裂が永遠の断層線になることはない。

レバント地方(地中海東岸)に国家建設を目指していたISが、アフガニスタンに進出してきたのは2015年のことだった。

ISの対外作戦トップだったアブ・ムハンマド・アルアドナニが「ホラサンの地」への拡大を表明したのだ。ホラサンとは、アフガニスタンだけでなく、インドなど南アジア全体と中国の一部にまで及ぶ広大な地域を意味する。

ISの新しい地方組織は「ウィラヤート・ホラサン」と呼ばれるようになったが、欧米ではIS-Kという呼び名が一般的になった。IS本体のように秩序だった組織ではないが、ISと同じくらい多くの死者を出す事件を、きっちり実行する能力がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

神田財務官、介入有無コメントせず 過度な変動「看過

ワールド

タイ内閣改造、財務相に前証取会長 外相は辞任

ワールド

中国主席、仏・セルビア・ハンガリー訪問へ 5年ぶり

ビジネス

米エリオット、住友商事に数百億円規模の出資=BBG
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 7

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中