最新記事

テロリスクは高まるか

タリバンの思想は農村では「当たり前」? カブール市民が震え上がる「恐怖政権」の正体

THE MYSTERY OF TALIBAN RULE

2021年8月31日(火)17時50分
貫洞欣寛(ジャーナリスト)

タリバンは米軍の協力者らに対する報復はせず「恩赦を与える」と会見で発表したが、アフガン西部でドイツ国際放送の記者の家族が殺害される事件が起きた。アフガニスタン国営放送の女性キャスターが、局内への立ち入りを拒否されたとSNSなどで訴えている。女性向け広告のポスターが塗りつぶされるといった例も報告されている。

タリバンは「2.0」にバージョンアップしたのか。それとも再び、地方で支配的な価値観を全国民に押し付けるのか。そのとき、国民と国際社会はどう対処するのか。

タリバンはこの20年、「テロ勢力」としてアフガニスタンで選挙から排除されてきた。タリバン自らも選挙参加を「外国の傀儡になる道」と拒否し、有権者への攻撃を繰り返して選挙を妨害してきた。

タリバンは自由選挙を含む、いわゆる民主主義の導入を否定している。しかし、どんな政権も永遠には続かない。選挙がない限り、いずれ人々が政権を変えようと思えば、力で対抗するしか道は残らない。そのとき、どれほどの血が流れるのか。90年代にタリバンが攻略できなかった北部パンジシール渓谷に反タリバン勢力が結集しているといい、戦乱の芽は、既にある。

タリバンは「権力は独占しない」とし、ハミド・カルザイ元大統領らと会談。政権づくりを急いでいるが、一方で「シャリーアの枠内の人権」といった社会像以外の具体的な政策や方向性をほとんど示していない。

世界のアヘン供給量の8割を占め、タリバンの財源と目されるアフガニスタンでのケシ栽培と麻薬密輸をどうするか。国連薬物犯罪事務所(UNODC)の推計では、麻薬関連がアフガニスタンのGDPの1割を占めるという。

女性や少数民族の人権状況に疑義がある上、麻薬密売に関わっているとされる政権と関係を持つことは、各国と企業にとって受け入れ難い。一方で、20年にわたりアフガニスタン支援などの形で関与を続けてきた日本と国際社会は、今の情勢に一定の責任がある。

タリバンは8月24日、医師やエンジニアなど高度な専門知識を持つ人々の流出に強い警戒感を示し、「アメリカが専門技能者を出国させている」と非難した。私が01 年に出会った16歳の少女は、医師になったのだろうか。国外に出る飛行機に乗ったのだろうか。

(筆者はバズフィード・ジャパン・ニュース編集長。朝日新聞記者時代にアフガニスタン、イラク戦争を取材。中東特派員、ニューデリー支局長などを経て18年にバズフィード・ジャパンに入社、20年より現職)

▼本誌9月7日号「テロリスクは高まるか」特集では、米軍撤退目前に起きた空港テロが意味するもの、アメリカの対テロ戦争は20年前の振り出しに戻ったのか?を様々な角度からリポートする。

ニューズウィーク日本版 世界が尊敬する日本の小説36
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年9月16日/23日号(9月9日発売)は「世界が尊敬する日本の小説36」特集。優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

無秩序な価格競争抑制し旧式設備の秩序ある撤廃を、習

ワールド

米中閣僚協議2日目、TikTok巡り協議継続 安保

ビジネス

英米、原子力協力協定に署名へ トランプ氏訪英にあわ

ビジネス

中国、2025年の自動車販売目標3230万台 業界
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 3
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 4
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    【動画あり】火星に古代生命が存在していた!? NAS…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中