最新記事

米政治

アメリカ政治・社会の価値観の理解に欠かせない、レーガンのレガシー

REAGAN’S MORNING IN AMERICA

2021年8月28日(土)12時13分
H・W・ブランズ(テキサス大学オースティン校教授〔歴史学〕)
ロナルド・レーガン元米大統領

レーガンは時代を味方に付け、過去半世紀で最も成功した大統領となった MICHAEL EVANSーTHE WHITE HOUSE/GETTY IMAGES

<今年2月、生誕から110周年を迎えたロナルド・レーガンは底抜けの楽観主義だった。その存在は今も米国に影響を与えている>

ロナルド・レーガンは、物語を披露することが大好きだった。2004年に亡くなったが、大統領時代にプロテスタントの聖職者の集会で挨拶をしたときのこと。レーガンは、同じ日に死んだ聖職者と政治家についての話をした。

2人は天国の入り口で門番のペテロに出迎えられた。ペテロは天国のルールを説明し、2人をそれぞれの住む家に案内した。聖職者の家は、1部屋にベッドとテーブルと椅子があるだけ。政治家の家は、立派な家具がそろった巨大な邸宅だった。

政治家は感謝しつつも戸惑いを隠せなかった。「どうして私はこんなに素晴らしい家を与えられたのに、あの立派な聖職者は狭い家にしか住めないのでしょうか」

ペテロはこう答えた。「天国には、聖職者はもう大勢います。政治家でここに来ることができたのは、あなたが最初なのです」

いかにもレーガンらしいユーモアだ。笑い転げるようなギャグではないが、思わずクスっとさせられる。このとき語った物語は、その場にいた唯一の政治家である自分を卑下し、聴衆である聖職者たちのプライドをくすぐるものだった。

こうしたユーモアに接した人は、レーガンを親しみやすい人物だと感じる。政策への支持・不支持は別にして、この男のことが好きにならずにいられないのだ。

タイミングに恵まれた大統領

もっとも、レーガンが過去半世紀のアメリカで自身の理念の実現に最も成功した大統領になれた要因は、ユーモア感覚と人当たりのよさだけではない。タイミングにも恵まれた。

「小さな政府」を信奉するレーガンが大統領に就任したのは1981年。当時のアメリカ国民は、30年代のニューディール政策以来、ひたすら政府の規模が大きくなり続けていたことにうんざりし始めていた。

レーガンは就任演説で「この現在の危機においては、政府は問題の解決策になっていない。政府こそが問題だ」と述べた。この言葉は、多くの国民の気持ちを代弁していた。国民はレーガンの減税策と規制緩和に喝采を送り、84年の大統領選でも圧倒的な大差で再選した。

レーガンは別の面でもタイミングに恵まれていた。60年代まで、アメリカの民主党と共和党はいずれも保守派とリベラル派の連合体という性格を持っていた。共和党内では、北東部を地盤とする穏健派と、南部で勢力が強い保守派が共存していて、民主党内では、南部の保守派と都市部のリベラル派が共存していたのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ政権で職を去った元米政府職員、「

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中