最新記事

アフガニスタン

タリバンが米中の力関係を逆転させる

2021年8月15日(日)21時50分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

なぜなら後述するように、タリバンは和平合意で「アフガンをテロの温床にしない」と誓っているからだ。

米中覇権の分岐点:アルカイーダの復活を抑えることができるのは中国だけ?

7月9日、タリバンのスハイル・シャヒーン報道官は以下のように述べている

●中国の復興投資を歓迎し、投資家と労働者の安全を保証する。

●以前アフガニスタンに避難していた中国のウイグル人分離独立派戦闘員の入国を、タリバンは今後許さない。

●タリバンは、アルカイーダやその他のテロリストグループが現地で活動することも阻止し、アメリカやその同盟国、あるいは「世界の他の国」に対する攻撃を行うことを許さない。

一方、先述の7月28日のタリバン代表団との会談で、王毅は以下のように言っている。

――東トルキスタン・イスラム運動は、国連安全保障理事会がリストアップした国際テロ組織であり、中国の国家安全保障と領土保全に対する直接的な脅威となっている。タリバンは、東トルキスタン・イスラム運動など全てのテロ組織との線引きを明確にして徹底させ、断固として戦い、地域の安全と安定および開発協力の障害を取り除き、積極的な役割を果たし、有利な条件を作り出すことを期待している。

これに対してタリバン側は以下のように応じた。

――タリバンは、アフガニスタンの領土を使って中国に不利なことをする勢力を絶対に許さない。アフガニスタンは近隣諸国や国際社会と友好的な関係を築くべきだと、タリバンは考えている。

となると、アメリカがNATO軍を従えて20年間も支援してきたアフガニスタン政府では成しえなかったこと(=テロ組織を撲滅させて紛争のないアフガニスタンを建設すること)は、中国がタリバンと手を握ることによって成し遂げるかもしれないという未来が、目の前にやってきているということになる。

もし中国がテロ組織撲滅をやり遂げてアフガニスタンの経済復興と国際社会への復帰を成し得たならば、世界は中国の方が統治能力を持っているとみなす可能性がある。すなわち、米中の力関係は、タリバンによって逆転するかもしれないという、もう一つの「恐るべき現実」が横たわっていることになるのかもしれない。

===

なお本日8月15日は終戦の日である。76年前の終戦前夜、ソ連が参戦したという情報が入るやいなや、長春市(当時の「満州国新京特別市」)にいた関東軍は、丸腰の開拓団を始めとした日本人居住者を捨てて、いち早く南の通化に逃げていった。私はそのとき関東軍司令部のすぐ近くに住んでいて、司令部から資料を焼く煙が立ち昇るのを目撃した一人だ。米軍が撤収した後に残されたアフガニスタン市民の困惑を見るにつけ、あの時の不安と絶望を思い出す。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら

51-Acj5FPaL.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史  習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

ニューズウィーク日本版 高市早苗研究
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月4日/11日号(10月28日発売)は「高市早苗研究」特集。課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

スターバックス、中国事業経営権を博裕資本に売却へ 

ワールド

クック理事、FRBで働くことは「生涯の栄誉」 職務

ワールド

OPECプラス有志国の増産停止、ロシア働きかけでサ

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、FRB12月の追加利下げに
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中