最新記事

アフガニスタン

タリバンが米中の力関係を逆転させる

2021年8月15日(日)21時50分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

このような時代に国家のトップであるというタイミングに巡り合えたことは、習近平にとっては千載一遇(せんざいいちぐう)のチャンスだと言っていいだろう。

一帯一路がつながるだけでなく、ウイグル統治に有利

中国がパキスタンとの関係を「パキスタン回廊」などと呼んで緊密化させ、一帯一路の西側への回廊をつなげてきたことは周知のことだが、イランを始めとした中東諸国とのつながりにおいて、一か所だけ「抜けている地域」があった。それは正に今般米軍が撤収する「アフガニスタン」で、ここは長きにわたって紛争が続いていたので、周辺国との交易などというゆとりはなかったのである。

しかしアフガニスタンが中国寄りのタリバンによって支配されれば、アフガニスタンは完全に中国に取り込まれて、以下の地図のように「一帯一路」構想の中に入っていくことだろう。その投資の約束を、7月28日に訪中したタリバン外交使節団は王毅外相と約束したのである。

endo20210815202304.jpg
白地図に筆者が現状を書き込んで作成した。

赤で囲んだ中央アジア5ヵ国は、1991年12月26日にソ連が崩壊した後、1週間の間に中国が駆け巡って国交を結んだ国々だ。石油パイプラインの提携国であると同時に、ロシアも入れた上海協力機構という安全保障の枠組みの重要構成メンバーでもある。

緑で囲んだ中東の国々は、3月31日のコラム<王毅中東歴訪の狙いは「エネルギー安全保障」と「ドル基軸崩し」>で書いた、王毅外相が歴訪した国々だ。

ポコッと抜けていた地域を、アフガニスタンのタリバンがつないでくれれば、北京から西側は「中国のものだ」と習近平は喜んでいるだろう。

北に目をやれば、ロシアと中国は歴史上かつてないほど緊密だと、プーチン大統領は言っている。そのロシアと中国に挟まれたモンゴルが親中でない状況でいられるはずがない。

「一帯一路」巨大経済圏構想は、ますます「巨大」になっていくばかりだ。

一方、新疆ウイグル自治区のウイグル族(ウイグル人)たちは、イスラム教を信じており、スンニ派が多い。アフガニスタンも主としてスンニ派で、これまでは新疆からアフガニスタンへ逃げるウイグル人がおり、それが過激派集団に取り込まれていたという噂が絶えなかった。そのため「テロ鎮圧」を口実としてウイグル弾圧を強化してきた中国としては、タリバンと仲良くすることは非常に都合がいいのである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア報道官、トランプ氏の原潜配備表明に「核発言は

ビジネス

スイス高級時計メーカーの株価が下落、トランプ関税巡

ビジネス

テスラの中国生産EV販売、7月は前年比-8.4% 

ワールド

中国シーイン、イタリアで制裁金100万ユーロ 環境
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    メーガンとキャサリン、それぞれに向けていたエリザベス女王の「表情の違い」が大きな話題に
  • 3
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿がSNSで話題に、母親は嫌がる娘を「無視」して強行
  • 4
    オーランド・ブルームの「血液浄化」報告が物議...マ…
  • 5
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    ハムストリングスは「体重」を求めていた...神が「脚…
  • 8
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 9
    自分を追い抜いた選手の頭を「バトンで殴打」...起訴…
  • 10
    すでに日英は事実上の「同盟関係」にある...イギリス…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿がSNSで話題に、母親は嫌がる娘を「無視」して強行
  • 4
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 5
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 6
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 7
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 8
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 9
    メーガンとキャサリン、それぞれに向けていたエリザ…
  • 10
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 7
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 10
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中