最新記事

環境

今度は米西部でバッタが大発生、繰り返される厄災にどう対処すべきか

Now It’s a Grasshopper Crisis

2021年7月30日(金)19時45分
グレース・ウッドラフ

そこで、私が勤務するワイオミング大学生態系科学・管理学部が推奨しているのが、統合的な駆除戦略だ。これは殺虫剤を散布するエリアと、散布しないエリアを互い違いに設けるというものだ。

バッタは非常に移動性が高いから、広大な地域にくまなく薬剤を散布しなくても、自ら散布エリアに行って毒を食べて死ぬ。バッタの大食いの習性を利用するのだ。こうすれば限定的な量の薬剤で駆除できる。

――バッタは害虫でしかないのか。何かプラスの面はないのか。

もちろん、バッタも野生生物の世界の一員だ。人間が大好きな、美しい声でさえずる鳥の餌にもなる。

ただ、その数は管理する必要がある。(幼虫が成虫になる)1のこの時期に、統合的な駆除戦略によってうまく個体数を管理したほうが、問題が大きくなるまで放置しておくよりもいい。環境にダメージを与えずに、グレートプレーンズの農業とバッタの両方を維持できるのだから。

――バッタの大発生は今後頻発するのか、それとも「当たり年」だけの問題なのか。

バッタの大発生は昔から起こってきた。かつて学位論文を書くときに歴史を調べたのだが、1回の大発生が数年続いたこともあった。最終的には人間が介入しなくても、天候によって死に絶えた。

春に卵からかえったばかりの幼虫は、米粒ほどの大きさで、まだ飛べない。だから、ほかの節足動物や、場合によってはネズミの餌になり、個体数を抑制する助けになる。

――バッタの大発生はどのくらい昔からあったのか。

昔、私の指導教授が、ワイオミング州のウィンドリバー氷河でバッタの研究をしていた。その辺りとモンタナ州には「グラスホッパー氷河」と呼ばれる場所があって、氷河の下でバッタの死骸が見つかることがある。

これはかつてロッキー山脈付近で大発生したバッタで、風に乗って氷河のてっぺんにたどり着いたものの、寒さで飛ぶことができなくなり、氷河に取り込まれて、何百年も後に氷が解けて出てきたらしい。こうした氷河には、数世紀にわたるバッタの大量発生が記録されているわけだ。

――あなたは昆虫研究者として、バッタにどんな思いを抱いているのか。

個体数が限定的な「正常」なバッタなら、大きな魅力を感じる。バッタがアメリカの草原地帯で果たす役割は大きい。バッタが絶滅したら、大型哺乳類が絶滅する場合よりも、草原地帯の生態系に与える影響は大きいと思う。

ただ、1平方ヤード当たりの個体数が50〜100匹のような大群になると、あらゆるものを食べ尽くす非常に不愉快な存在のように感じる。

バッタを好きか嫌いかは決められないな。すごく魅了されるが、害虫として嫌われる理由もよく分かる。

©2021 The Slate Group

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

エアバス、受注数で6年ぶりボーイング下回る可能性=

ワールド

EU、27年までのロシア産ガス輸入全面停止へ前進 

ワールド

アングル:中東ファンドがワーナー買収に異例の相乗り

ワールド

タイ・カンボジア紛争、トランプ氏が停戦復活へ電話す
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 4
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「…
  • 5
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 6
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的、と元イタリア…
  • 7
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中