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コロナ禍で疲弊したインド農家を、非情なバッタの大群が襲う

LOCUSTS PLAGUE INDIA

2020年6月12日(金)18時30分
ニータ・ラル

サバクトビバッタの大群はインド各地の農地に侵入して作物に甚大な被害をもたらしている(ラジャスタン州ジャイプール) VISHAL BHATNAGAR-NURPHOTO/GETTY IMAGES

<ただでさえコロナ禍で疲れ切っているところに作物を好き放題に食い荒らすバッタが大量発生――食と経済の安全保障が脅かされインドにとって試練の季節に>

新型コロナ危機によるロックダウン(都市封鎖)は、インドの農業にも多大な影響をもたらした。食料のサプライチェーンは機能せず、農家は人手不足に悩み、資金繰りに苦しんでいる。

だが、それだけでは手ぬるいと言わんばかりに、別の災厄が農家を襲っている。バッタだ。

いまインドの農業地帯には、バッタの大群が押し寄せている。肥沃な土地でも乾燥した地域でも、バッタの大量発生による被害が食と経済の安全保障を脅かしている。

バッタの襲来は昨年冬から、グジャラートやラジャスタン、パンジャブ、ウッタルプラデシュといった国境地帯の各州で観測され、農家と地元当局は神経をすり減らしている。雨期に入る6月には、カリフ作(雨期作)と呼ばれる米やトウモロコシ(メイズ)、キビ、大豆、落花生など、秋に収穫する作物の種をまくことになるので、懸念は強まる一方だ。

農家にとって、バッタほど厄介な昆虫はいない。たいていの作物はバッタの好物だ。大群なら、1日に約3万5000人分の食料を平らげることもある。

サバクトビバッタの寿命は平均約3カ月で、雌は一生に2〜3回産卵する。1回に産む卵は60〜80個で、多い時には150個以上になることもある。この強い繁殖力を武器にして、1平方キロの土地に4000万〜8000万匹が群れを成す。1日に100キロ以上移動することもできる。

これまでアフリカのソマリアやエチオピア、ケニア、エリトリア、ジブチなどで、バッタは牧草地や穀物畑に甚大な被害を与えてきた。タンザニアやウガンダ、南スーダンでも、トウモロコシやキビ、小麦の畑を食べ尽くした。

第2波は1兆9000億匹国連食糧農業機関(FAO)は2月、イラン南部とパキスタン南西部にバッタが大量発生する可能性があると警告していた。インド西部を含む南西アジア全域も危険にさらされる恐れがあるという予測だった。

この夏に発生するとみられる第2波は、この第1波の20倍もの被害を生むと予測されている。実に1兆9000億匹の規模になると、国連は推定している。

バッタの襲来は、インドでは新しい現象ではない。ただし普通は7〜10月の間に限られており、それほど大群にはならない。今年は4月にパキスタンとの国境地帯で予想外の発生が確認され、懸念が深まった。

各州政府はナレンドラ・モディ首相に、「国家災害」の指定を要請した。隣国のパキスタンでも今年に入って大量発生が続き、国家非常事態が宣言された。

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