最新記事

パンデミック

医療崩壊寸前のインドネシアに残された在留邦人の不安はピークに

2021年7月13日(火)20時30分
大塚智彦

インドネシア政府は当初、出国する外国人に対して「コロナ陰性証明」と同時に「ワクチン接種証明書」の提示を義務付けたが、日本をはじめとする各国大使館の申し入れで即刻この規則は撤回された。

さらに出国する国際空港があるジャカルタなどに他地域から向かう外国人に対しても「ワクチン接種証明」の携帯、提示が求められたが、これも「ワクチン接種を本国で受けるために空港へ向かうのにワクチン接種照明を義務付けることは整合性に欠ける」との声を受けて撤回されている。

こうした思いつきとも思える在留外国人へのインドネシア政府の「朝令暮改」に振り回されているのが日本などの各国大使館という現状があり、日本大使館が在留日本人を対象にして発出している通知にも「インドネシア政府の感染防止対策などは急に変更される可能性がある」と注意する事態が続いている。

日本大使館関係者は「危機的状況にある」として、一日の感染者が1万4000人以上を記録(7月12日)している首都ジャカルタの状況に強い危機感を募らせているという。

ロックダウンには依然消極的

タイ政府は7月12日から首都バンコクなどに実質的な「ロックダウン(都市封鎖)」を発令して感染拡大防止策に乗り出した。この「ロックダウン」には午後9時から翌日の午前4時までの外出禁止令が含まれており、思い切った判断といえる。

これに対しインドネシア政府、首都ジャカルタの州政府などは「経済活動への影響が深刻になる」との理由で強い「活動制限」に踏み切れない状態が続き、それが感染拡大を防げない一因になっている、との批判も出ている。

3日に「緊急公衆活動制限(PPKM Darurat)」を施行して、主要な基盤分野の産業を除いてリモートワーク率を100%として、学校教育はすべてオンライン化。宗教施設やショッピングモール、飲食店の閉鎖(飲食店はテイクアウトのみ可)、主要道路への一般車両・バイクの乗り入れ規制、国内移動に際して(インドネシア人対象)ワクチン接種済みの証明書携帯などを義務付けている。

それでも目に見える効果はなく、感染者・死者は減少するには至っていない。

ジョコウィ内閣の閣僚からは「政府のコロナ対策を信用するように」「感染者にはワクチン未接種者が多い」「必要とされる医療用酸素、感染者用病床は確保の見通しが立っている」などの声が出され、ジョコウィ大統領によるワクチン接種現場の視察の様子と共に地元メディアを賑わせている。

しかしそうした中に緊急事態への具体策はあまり見えず、インドネシア人の間からも政府不信の声が出始めているという。

大使館対応に在留日本人の間から動きも

ジャカルタ在住の日本人によると、危機的状況にある現況に何らかの対応策を日本大使館に尋ねたところ「重症者は海外旅行保険に入っていると思われるので、それを使って飛行機で帰国し、日本で治療して下さい」と言われたという。

さらに在留日本人の間では一時帰国、本帰国を含めて「日本への出国を希望しながら、航空券確保が困難な状況にある」という在留日本人の数を調査して、「こうした在留日本人に対してどういう対応が可能なのか」と対応を尋ねようとする動きがでて、現在具体的な希望者調査をしようという機運が盛り上がっているという。

在外公館としてできることに限界があることは在留日本人の間でも理解があるものの、このインドネシアの危機的状況の中で、特別な方法、手段、対応策があるのか、ないのか、そして可能なのか、不可能なのか、大使館側と在留日本人側の双方の苦悩は今日も出口が見えない中で続いている。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

JERA、米ルイジアナ州のシェールガス権益を15億

ビジネス

サイバー攻撃受けたJLRの生産停止、英経済に25億

ビジネス

アドソル日進株が値上がり率トップ、一時15%超高 

ワールド

EU、対ロシア制裁第19弾を承認 LNG禁輸を前倒
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺している動物は?
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 6
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 7
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 8
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 9
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 10
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 8
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 9
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 10
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中